「くの字」のマチは、使わない。
2022年11月、亀太郎氏の工房を訪ね、ラウンドジッパーのロングウォレットについて意見交換を行った。いつも通り、オガワが持参した手書きのラフを元に、雑談からお互いの脳内イメージをリンクさせていく。
ウォレットの内部構造に関する絶対条件は、「くの字」のマチを使わないこと、カード収納部を「空間」にすること。
ラウンドジッパーのロングウォレットでは、小銭入れの両サイドに「くの字」のマチが付いた札入れがレイアウトされていることが多い。「くの字」のマチによってウォレットは大きく開き、収納物へのアプローチが容易になる。その使い勝手の良さから多くの人々に支持され、多くのブランドが採用している。
だが、オガワの視点は別にある。
収納時に紙幣がマチに干渉することがある。そして、メリットでもある大きく開くこと。この二点が、どうにも苦手なのだ。
些細な干渉や違和感は、やがて大きなストレスになる。紙幣は然るべきスペースにしっかりと収めてあげたい。そして、ウォレット内部はプライバシーの極みだ。開口は必要最小限に抑えたい。
上記の理由から「くの字」のマチは使わない。
カードは「差す」より「置く」。
一般的なウォレットのカード収納は、革と革の間にカードを挟み込む構造だ。ひとつの収納部に、カード1枚もしくは2枚を差し込むことが多い。
この構造はシンプルな反面、革が馴染むまでカードの出し入れがきつい。さらに、二つ折りウォレットのように指先で自由にアプローチできる場合は問題ないが、スペースが限られるラウンドジッパーでは少々使いづらい。
特に、カラダだけでなく指も太いメタボリックなオガワにとっては一苦労だ。太い指で力任せに出し入れしようものなら、カードを破損しかねない。
そこで、収納部の両サイド&ボトムに革のスペーサーを挟み込むことで「箱状の空間」を作り、カードを「差す」のではなく「置く」。この構造により、今までにないストレスフリーなカードの出し入れが可能となる。
「くの字」のマチを使わないこと。カード収納部を「空間」にすること。この二点については、既に発表しているショートウォレット「OG-9」でも具現化している。
オガワの好みでしかない。
ラウンドジッパーのロングウォレットの多くは「くの字のマチ」「差し込むカード収納」を備えており、オガワの持論は決してそれらを否定するものではない。むしろ、オガワのプロダクトの方が、万人受けしない。
「自分が欲しいプロダクト」をカタチにしているに過ぎない。そして、オガワの考えに賛同してくれた特定少数のブラザーと楽しむためだけに、モノ作りを続けている。
SNSが当たり前になった昨今、肯定的、否定的を問わず、様々な反応を頂くこともある。それらすべてに感謝しつつも、オガワは「横を向いたモノ作り」ではなく「前を向いたモノ作り」を貫いていくのだ。