手縫いで仕立てる。

「OG-19」Crocodile Bag

同じ方向を向いた、モノ作り。

当初、このクロコバッグも馬革バッグ「OG-6」と同様、ミシン縫いで仕立てるつもりだった。

かなり昔の話になるが、いわゆるレザーウォレットが流行った時、「手縫いは凄い」「ミシンは風合いに乏しい」「手縫いは手作り」「ミシンは量産」などと言われたことがあった。

まったくそんなことはない。どちらもハンドメイドであり、どちらにも風合いがある。

オガワは「手縫い信者」ではない。手縫いとミシン縫い、双方の長所と短所を見極め、プロダクトに適した縫製を選べばいい。馬革バッグ「OG-6」を象徴する美しいダイヤキルトは、ミシン縫いならではのディテールである。

だが、クロコダイルをミシンで縫うことに気掛かりな点もあった。クロコダイルの表面には硬い凹凸がある。ミシン縫いの場合、段差で針が動き、ステッチが揺れることがある。

試しにクロコダイルの端材をミシンで縫ってもらった(上写真)。案の定、段差でステッチが揺れる。この乱れを目立たなくするために、クロコダイルと同色のブラックの縫製糸で縫うことを考えていた。

それで、オガワは満足できるのか。
ブラザーにワクワクを届けられるのか。

忘れもしない、趣味の塊根植物の肥料を買いに、自宅からほど近い園芸センターに行っている時だった。居ても立ってもいられなくなり、駐車場に停めた相棒ラムの運転席に戻り、すぐ徳永氏に電話を掛けた。

「例のクロコバッグ、手縫いで作れないか」

「手縫いですか……、やりましょう」。

冷静沈着。一呼吸置いた後、何事もなかったかの如く、そう言ってくれた。「心が晴れる」という言葉があるが、まさに一瞬にして不安が消え去り、モチベーションが湧き上がる自分がいた。

数日後、徳永氏からステッチのサンプルが送られてきた。手縫いで使うシニュー糸の色見本だ。

クロコダイルを手縫いする。幅30センチに満たない小さなバッグではあるが、ウォレットと比べれば圧倒的にデカい。費やされる労力や時間は数倍。それでもモチベーション高く、究極のバッグを作るためにオガワのワガママに付き合ってくれる。

同じ方向を向いたモノ作り。グルーバーレザーの徳永氏と原山氏、すべての職人たちには感謝しかない。

4月某日。すべての準備が整い、サンプル製作を行った。ここでは割愛するが、各パーツの漉き加工や下処理。クロコバッグのための芯材の設定。その緻密な製作工程は驚愕に値する。

硬いクロコダイルに菱目打ちで慎重に穴を開け、丁寧に縫い進めていく。馬革や牛革に比べ、針を通すのも簡単ではない。それでも見る者を虜にする、美しいステッチワーク。これぞ職人技と呼ぶに相応しい。

曲線部分は一穴一穴、丁寧に開けていく。この根革は途中で縫いを止めずに縫い切る「ひと筆縫い」。

ハンドルを含め、バッグ表面に見えるすべての縫製箇所は手縫いだが、ボディの組み立てと内装は、より安定したステッチラインのミシン縫いを採用する。

内装が縫い終わった後、表に返し、ハンマーで軽く叩いてカタチを整える。最後に、ジッパーの引手を取り付ければ完成だ。

美しく腑が並んだナイルクロコの表面を傷付けるわけにはいかない。百戦錬磨の職人でもクロコダイルの扱いは緊張するという。