「きなり」ではなく「なまなり」。

「OG-9」Ver.Nama-nari

あの頃のワクワクを再び。

生成り。「きなり」と読めば「漂白していない糸や生地」を意味し、「生成りの革」「生成り色」といった慣れ親しんだ言葉が浮かぶ。

一方で、「なまなり」と読めば、「般若の前段階、女性の中の魔性が十分に熟れていない状態」や「十分に出来上がっていないこと」という意味があるらしい。

ネットで検索したら、そう教えてくれた。なるほど。オガワが次なるウォレットに描くイメージに、もっとも適した言葉、読み方だ。

学生時代、生成りのレザーウォレットをよく使っていた。ブランドにこだわっていたわけではない。暇さえあれば足を運んでいた、東京町田の東急ハンズで買った安価なウォレットばかり。それでも嬉しくて、日光浴をさせたり、手で擦ってみたり。ナチュラルな革が色濃く変化していく様が、たまらなく好きだった。

余談だが、あの頃の「東急ハンズ」(現ハンズ)は、革コーナー、木材売り場、工具売り場、文具売り場……どのフロアもワクワクに満ち溢れていた。

ふと思い返すと、久しく生成りのレザーウォレットを使っていないことに気付く。記憶の限りでは2007年に「Daytona BROS」を立ち上げて以降、現在に至るまで使っていない。

ワクワクを再び。そんな衝動に駆られた。

今であれば、生成りの栃木サドルで最高のウォレットを仕立てることができる。文句なしの最上級素材が、どんな飴色を見せてくれるのか。あの頃よりも、素晴らしいエイジングを手に入れることができるのか。

早速、亀太郎氏に依頼し、「OG-9」をベースにした「Ver.Nama-nari」のサンプルを仕立ててもらった。表も内部もオール栃木サドル。もちろん日光浴は施していない。日光浴は手にした者の役目である。

新たな挑戦も盛り込む。

肉厚な栃木サドルを「ヘリ返し」のエッジで仕上げる。オガワが企画した今までのウォレットは、表に馬革を使い「ヘリ返し」のエッジで仕上げた。だが、今回は馬革より硬い栃木サドルだ。

どんな表情を見せてくれるのか。もしかしたら、ダメージが発生し、耐久性に影響を及ぼすかもしれない。何度も言うが「百聞は一見にしかず」なのだ。オガワ自身が試してみなければ、実際にこの目で確かめなければ、判断することはできない。

冒頭で「きなり」「なまなり」の違いを説明した。どちらを選んでも意味は伝わるが、「十分に出来上がっていない」という「Nama-nari」(なまなり)の方が、オガワがこのプロダクトに込める想いに近い。

目指すのは、最高品質の未完成ウォレットである。