愛用ウォレットの表情を再現。
己の欲深さは底無しなのか。2023年、ブラックに染め上げた極上のナイルクロコで仕立てた「OG-19」を発表。自分の中では、ひとつの夢が叶った瞬間だったはずだが……。
ブラウンの「19」が、無性に見たくなった。
ひと口に「ブラウン」と言っても星の数ほど存在する。だが、オガワの脳内には理想のブラウンが鮮明に存在していた。例えるならば、宇宙空間のひとつの星のひとつの砂粒。それくらい、ピンポイントのブラウンである。
かつてオガワが愛用していたクロコダイルのウォレット。その一部分の佇まい。擦れ、汚れ、褪色など、様々な要因によって生まれた濃淡のある色合い。この表情を「19」で楽しみたい。
さっそく生産ファクトリーであるグルーバーレザー徳永氏に連絡。ひとつのバッグ製作に必要な3枚のクロコダイルの手配、そして染色テストをタンナーに依頼してもらった。もちろん、前出のクロコウォレットも色見本として送った。
徳永氏には「理想のブラウンに染まらなかった場合は、今回はバッグを作らない」と予め伝えておいた。それほど今回の「OG-19」において、オガワは色味を重視していたのだ。
厚塗りで単調なブラウンに染めるのであれば、それほど難しくはない。個体差もほとんどないだろう。
だが、極上のクロコダイルが持つ表情や質感をブラウンカラーで楽しむには、程良い濃淡と透明感、そして立体感のある仕上がりが不可欠。すべては染め職人の技に委ねられる。
約一か月後、試験的に染色したクロコダイルがオガワの手元に届いた。段ボールを開封し、眼前に広げた瞬間、全身が熱くなった。素晴らしい。寸分の誤差もなく、これほど脳内イメージと完全リンクすることも珍しい。
オガワのような素人が偉そうなことを言って申し訳ないが、この仕上がりを見ただけで、染め職人の圧倒的な経験値、技の引き出しの多さを感じることができた。
モチベーションは最高潮に達した。興奮冷めやらぬうちに徳永氏に連絡を入れ、サンプル製作の日程を調整。「OG-19 Brown」の完成に向けて、一気に歯車が動き出したのだった。