「ちょっとコンビニ」ウォレット。
2020年、新型コロナウイルスによって日常生活は激変した。外出は制限され、当たり前が当たり前でなくなった日常。2018年に出版社を退社し、自宅を拠点とする個人事業主となったオガワにも、少なからず影響は出ている。
現場が好きだ。打ち合わせはもちろん、製作現場に足を運び、職人の技をこの目に焼き付け、プロダクトがカタチになる瞬間に立ち会いたい。
だが、新型コロナウイルスによって、容易く出張に行ける状況ではなくなった。緊急事態宣言が発令されていた期間は、近場の打ち合わせすら行える状況ではなかった。
影響は仕事だけではない。日頃から運動不足のオガワにとって、外出できないことは、健康を損ねるリスクがある。そこで始めた、深夜のウォーキング。負荷の高いジョギングはストレスになる。だから、走りはしない。歩く。
誰もいない深夜の街中。約2時間、ゆっくりと歩く。自分の好きなモノコトだけを考える。脳内をリフレッシュさせるには最高の時間だ。
今まではクルマで行っていた近場のコンビニにも、歩いて行くようになった。ウォーキングのスタイルはジャージ、もしくはスウェットパンツだ。
このスタイルから、新たなアイデアが生まれた。
かれこれ10年以上、ウォレットはロング一辺倒。コンビニに歩いて行く時にも、ポケットにロングウォレットを捻じ込んでいた。だが、さすがにジャージやスウェットパンツのポケットにロングはきつい。
ふと、小さなウォレットが欲しくなった。気軽に持てる手のひらサイズ。「ちょっとコンビニ」ウォレット、そんな感じがいい。
作ろう。
ウォーキングでリフレッシュされたオガワの脳内は、実に判断が早い。
「苦手」こそ最高のモチベーション。
そもそも、小さなウォレット、つまりショートウォレットが苦手だ。今でも多くのレザーウォレットを所有するが、ショートウォレットはひとつもない。
大量の札束を持ち歩く富豪ではないので、収納力が問題ではない。
10年以上、ショートウォレットを持たなかった最大の理由。それは、手にした瞬間のワクワク感、所有欲を満たすモノとしての存在感が、ロングウォレットに劣る。勝手にそう決めつけていたからだ。
そしてもうひとつ、使い勝手に満足できるショートウォレットに出会ったことがなかったからだ。
ならば、ふたつのマイナス要因を克服する、究極のショートウォレットを作ればいい。幸いなことに、今はモノ作りを生業としている。日本を代表する革職人も身近にいる。
ショートウォレットが嫌いな自分が持ちたくなるショートウォレット。己の価値観を覆すプロダクトを作る。これ以上のモチベーションがあるだろうか。
コンビニ袋を片手に深夜の街中を歩きながら、興奮が収まらない。自宅に着く頃には、理想とする小さなウォレットのイメージが脳内で出来上がっていた。