百聞は一見にしかず。
ファーストサンプルに向けた打ち合わせの場合、あまり細部まで追い込み過ぎないように心掛けている。
具体的な脳内イメージや「こうあるべきだ」という譲れないディテールは必要だが、すべてにおいて明確過ぎるイメージを描いてしまうと、新しい発見やアイデア、大幅な修正を受け入れられなくなる。
結果、完成に至るまで遠回りしてしまうことになる。
今回のファーストサンプルが、まさにそうだった。当初のレイアウトは、中央に札入れを設置し、その左右に小銭入れとカード収納を配置するものだった。
上写真はオガワのイメージをカタチにすべく仮組みしてもらった構造確認用のファーストサンプルだが、到底納得できるものではない。
亀太郎氏の仕立てにはまったく問題がない。すべては、オガワの見通しの甘さ、想像力の欠如。「百聞は一見にしかず」とは、まさにこのことだ。
まず、ウォレットが大きく開き過ぎる。
一般的にはメリットなのだろうが、オガワ的にはデメリットだ。ウォレットを開く度に札入れ部分が大きく広がり、紙幣が動く。ウォレットとは、紙幣が心地良く休める場所でなければいけない。
自分に置き換えればわかりやすい。周りの人が動く度に自分が寝ている布団が動いたら、不快極まりない。
小銭入れの位置も良くなかった。
外周のジッパーを閉めた際、小銭入れのジッパー胴体が押され、ウォレット外側に膨らみが発生してしまう。美しくない。
このファーストサンプルでも、ウォレットとしての機能はしっかりと果たす。むしろ「使いやすい」と気に入ってくれる人もいるだろう。だが、ダメなのだ。
触れた瞬間に、心躍るか。
上記は構造上の問題点だが、それよりも大きな問題点があった。
ファーストサンプルに触れた瞬間、指先が違和感を感じた。理由はすぐにわかった。オガワが欲しているサイズとの数ミリの誤差。数値にして、2〜3ミリ。
「手に馴染む」「手に吸い付く」、これはセールストークでもなければ、誇張した表現でもない。
ウォレットだけではない。レザーJKTも腕時計もそうだ。心躍るプロダクトは、手にした瞬間にわかる。指先からワクワクが伝わらなければ、「Original Garment Brothers」の品番を与えることはできない。