エイジング加工への葛藤。

「Tiger Mint Case」(End)

何かが物足りない。

虎を手彫りしたミントケース。ふと手を止めて思った。何かが物足りない。魂を込めて虎を彫ったはずなのに、何かが足りない。デザインには自信がある。手作り感溢れる彫りも味わいがあると思っている。悩んだ挙句、ネットで使い込まれたベトナムジッポーを見た。その瞬間、足りないものが理解できた。物欲に訴えかける質感。所有欲を満たす重厚感。

綺麗過ぎる。

ノーマル状態から使い始め、やがて表面のメッキが剥げ、真鍮素材が現れる。その頃には無数の傷が付き、迫力の風格を漂わせているはずだ。だが、何年掛かるだろうか。そこに至るまで、この状態で使い続けなければいけないのか。大多数の人は新品から使い込むことを選ぶかもしれないが、気が短いオガワは待てそうにない。

エイジング加工を施してみる。

実際に使ってみて、どの部分が擦れやすいかを確認。番手(粗さ)の異なる10種類以上のサンドペーパーを用意し、どの番手がリアルな擦れ具合を再現できるか試してみる。そして完成したエイジングモデル。

これだよ、これ。この風格だ。

自分でも惚れ惚れする質感。加工前と後ではまったく別物のような重厚感。純粋にカッコいいと思えるプロダクトが目の前にある。最初はテストとして試したエイジング加工だったが……

販売モデルもエイジング加工を施そう。

使い込む程にエイジングを楽しめるモノたち。例えば、ジーンズやレザージャケット、レザーウォレットや腕時計など。それらは新品の状態から使い込むことが醍醐味であり、最高のこだわりであることはオガワも理解できる。しかし、このミントケースは適度なエイジング加工が施された状態で手にして頂き、そこからさらに自分だけのライフスタイルを刻んで頂きたい。

葛藤はある。

虎を手彫りする作業よりも、エイジング加工の方がはるかに時間が掛かる。虎だけを彫って、ケースに収めて販売すれば効率は良い。「エイジング加工をしていないモノが欲しい」という声もあるだろう。両タイプを販売するという選択肢も考えた。しかし、なぜ自分は「Original Garment Brothers」を立ち上げ、様々なモノ作りに挑戦するのか。

自分が使いたいと思うモノしか作らない。

エイジングモデルだけの販売に決めた。