ベトナムジッポーなミントケース。

ARCHIVE

日本の愛煙家が今ほど肩身が狭くなかった時代、アメカジ好きはジッポーをコインポケットに仕込み、アタリを楽しんでいた。しかし、急速に禁煙ブームが進み、喫煙者が減少すると、コインポケットにアタリが付いたジーンズを穿いている人に出会う機会は少なくなった。そんな現状に寂しさを覚え、立ち上がった男がいる。

オガワの友人でもある彼は、アパレルとはまったく異なる本業の傍ら「アイイロデニムワークス」という個人ブランドを立ち上げ、オリジナルのジーンズを製作、販売するほどアメカジ愛に溢れた男だ。ベトナムジッポーにも造詣が深く、ジッポーに近いサイズのフリスクに目を付け、オリジナルケースの製作を決意する。

何軒もの金属加工の工場に飛び込みで回り、趣旨と情熱を説明。何度断られても諦めない不屈の精神で、志を共にしてくれる工場と出会う。デザイン、素材、メッキ、理想のためであれば時間やコストを惜しまず何度でも試作を繰り返し、ようやく完成へと辿り着いたのだった。

姿を現したフリスク専用のケースはベトナムジッポと同様、素材に真鍮を使い、クロームメッキが施される。使うほどに表面のメッキが擦れ、下地の真鍮が顔を覗かせる。その佇まいは、まさにベトナムジッポそのものだ。

オガワも実際に使ってみたが、質感だけでなく品質も折り紙付きだ。フリスクケースは上箱と下箱がスライドする構造。上箱だけをホールドし、下箱がスムーズに開閉しなければだめだが、このケースは見事なホールドを実現している。

使っているうちにホールドが甘くなってきたら、ケースの幅を軽く狭めれば再びがっちりとホールドする。長い年月愛用することを考えた、極力シンプルな構造も見逃せない。

オリジナルのフリスクケースを装着すると、味気ないプラスチックケースが瞬時にして男の装備品になる。「俺はフリスク派ではなくミンティア派」という人も、内容物を入れ替えてでもこいつを使いたくなるはずだ。ビジネスシーン、食事の席、キャバクラ……どこに行っても注目の的。男の持ち物とは、こうでなくてはいけない。

私が出版社に勤務していた2017年の夏。彼は「Daytona BROS」の創刊10周年のお祝いとして、自らの手で彫刻した世界でひとつのミントケースをプレゼントしてくれた。こだわりのケースにオリジナルの刻印。お金では買えない最高の贈り物だった。

出版社を退社し「Daytona BROS」も休刊となった今、それまで雑誌を支えてくれた読者や業界関係者の方々、インスタやフェイスブックを見てくれているフォロワーたち……つまりオガワの大切で愛すべき仲間たちと、今まで通り、いや今まで以上にコミュニケーションを取り、アメカジを盛り上げていきたい。

その一貫として、オガワの手彫りによるミントケースを製作、販売することを決めたのだ。