サンプルの宿命。

「OG-19」Crocodile Bag

完成した「19」を分解する。

サンプルの完成から、僅か5日。自宅の仕事部屋で「OG-19 Brown」のカッコ良さに見惚れていた時のことだった。

ふと、ハンドル(持ち手)の金具付近に違和感を感じた。それが上の写真だ。見ての通り、シワが寄っている。長い板状のハンドルに角度を付けて金具に取り付けているため、斜めに力が加わる部分。そこにシワが寄っている。

腑が多い(細かい)部分だったこと、仕立て時に外力が加わったことなど、様々な要因も考えられる。

既にブラックの「OG-19」を所有しているブラザーはお分かりだと思うが、「OG-19」のハンドルは硬く、ガッチリと仕上げている。馬革バッグ「OG-6」の数倍はガッチリしている。

その目的は耐久性の向上、そしてクロコバッグとしての威風堂々たる佇まい、握り心地を向上させるため。内部には芯材も挟み込んでいるので、この部分にシワが寄っても耐久性にはほとんど影響がない。

だが、気になり始めると、居ても立っても居られない性分。気が付けば、徳永氏の電話を鳴らしていた。現状を伝え、LINEで写真を送った。そして「このシワを無くしたい」と遠慮なくリクエストを投げた。

完成してまだ5日。手間の掛かる手縫いバッグ。耐久性にはほとんど影響がないシワ。実のところ、上のシワ写真は意図的にわかりやすく撮影しており、実際はほとんど目立たない。

オガワが職人であれば、間違いなく「マジかよ」と思う。だが、徳永氏は間髪入れず「すぐに修正します」と返事をくれた。これほど頼もしい職人がいるだろうか。

バッグを宅急便で送り、徳永氏、そして原山氏に修正を一任することもできたが、それでは礼に欠ける。ちょうど徳永氏と共に長野県飯田市のタンナーを訪問する予定(次回レポート)があったため、時間を調整してファクトリーにも寄らせてもらい、修正を見届けることにした。

仕立てよりも手間の掛かる、修正。

硬いクロコダイルに穴を開け、一針一針、力を込めて縫い進めたステッチ。今度は丁寧に解いていく。申し訳ない気持ちで一杯になった。

ステッチを解いたら、クロコダイルを傷付けないように接着部分を剥がし、シワの原因を探る。革の状況、漉き厚、芯材の厚さ。徳永氏と原山氏が真剣に検証している。オガワは無用な口出しはせず、コーヒーと煎餅を頂きながら状況を見守るのみ。

詳細はお伝えできないが、より屈強な持ち手になる修正を施し、再度バッグ本体に取り付けていく。

ここからが実に大変な作業だった。通常の製作工程では、ハンドルは単体で縫い上げてからバッグ本体に取り付ける。だが、今回はバッグに取り付けた状態で、ハンドルを縫い上げる。しかも、既に開いている穴を針で探り、同じ穴を使って縫い進めていく。

忘れてはいけないことがある。シワが寄った部分だけ、片側のハンドルだけを修正すればいいわけではない。両側のハンドルが同じ仕様、同じ品質、同じ強度でなければいけない。

つまり、シワが発生していない反対側のハンドルも分解し、同様の修正を施し、再びボディに取り付けることになるのだ。

気の遠くなるような作業にも関わらず、集中を切らさず、クロコダイルを傷付けず、黙々と作業に向かう原山氏。本当に感謝しかない。

修正作業が完了。ハンドルのシワは見事に解消され、ガッチリしていたハンドルは、さらにガッチリした握り心地になった。

今回の修正内容を型紙に記録し、本生産に向けて念入りに協議する徳永氏と原山氏。彼らと共にモノ作りを続ける限り、「OG-19」はこの先も進化し続けるだろう。