ファーストサンプルを作る。

「OG-9」Short Wallet

伝説の匠、再び。

絵心に乏しいオガワが脳内のイメージを書きなぐった、A4用紙のラフスケッチ。勢いに任せて、何の根拠もない寸法まで書き込んでいる。ただ、レザークラフトの知識も技術も持ち合わせていなオガワにも、「OG-9」の仕立てが困難を極めることは想像が付いた。

あの男しかいない。

東京都足立区、西新井大師の近くに工房を構える革職人、亀太郎氏の元へ向かった。2020年1月にリリースした手縫いロングウォレット「OG-8」も、氏の手によるものだ。

かつて「ウォレットを折る」という行為を儀式化し、一斉を風靡したブランドの手縫いモデルや特別オーダー品を手掛けてきた凄腕の職人。オガワが絶大な信頼を寄せる、百戦錬磨のレザークラフツマンだ。

亀太郎氏にラフスケッチを見せ、熱い思いを語る。説明というよりも、もはや魂の叫び。無知とは恐ろしいもので、職人の立場から見た「可能」「不可能」を考慮せず、ただひたすらに、希望のディテールを伝える。

そんなオガワの話に亀太郎氏は冷静に耳を傾け、イメージの共有に全神経を注ぐ。同時に「OG-9」の構成パーツをイメージし、脳内で組み立てを始めていたのだった。

譲れない、ふたつのディテール。

打ち合わせから数日後、亀太郎氏からファーストサンプル完成の連絡が入る。構造確認用のモックアップ的サンプルのため、表に馬革も貼らず、ジッパーも汎用品。裁断もコバ処理も縫製も、すべて仮りの姿。だが、構造はしっかりと確認できる。

オガワが新たなプロダクトを企画する時、大切にしていることがある。それは、己の経験だ。奇をてらう必要もなければ、無意味なオリジナリティを主張する必要もない。過去の経験で感じたことを、そのままプロダクトに落とし込む。

「OG-9」を企画するにあたり、決して妥協できない、ふたつのディテールがあった。いずれも、自分自身の経験から「こうあるべきだ」と思い続けてきたディテールだ。

カードは空間に収納する。

新品のレザーウォレットを初めて使う時、誰もが感じることがある。カードの出し入れがきつい。

基本的なカード収納は、縫い合わされた2枚の革の間にカードを差し込む。そのため、革が馴染み、適度に伸びるまではテンションがきつく、出し入れが困難なこともある。「カードが割れそう」そう思った人も多いはずだ。

二つ折りウォレットにおいては、この仕様で問題ない。むしろ、ある程度のテンションでカードを挟み込まないと、ウォレットを開いた時にスルッと落下する恐れがある。

だが「OG-9」では、ベストなディテールではない。

ラウンドジッパーの場合、カード落下のリスクは大幅に低くなる。そのうえ、カード1枚に対して1箇所の収納スペースを設けていては、小さなショートウォレットでは収納枚数が極端に少なくなる。

ならば、収納部の両サイドに革パーツをスペーサーとして挟み込み、空間を作ってはどうか。5枚ほどのカードをまとめて放り込める空間。箱のような空間。つまり……

「差し込む」のではなく「置く」。

反対面の札入れも同仕様にすれば、より多くの紙幣を収納できることになる。

当たり前の「マチ」を見直す。

雑誌編集者として出版社に勤務していた頃から愛用している名刺入れがある。表革に黒いコードバン、内部はオレンジの牛革。色の組み合わせが気に入って5年以上使っているが、実は同じ年月だけ使い勝手に対する不満も抱き続けている。

内側に折り込まれた「くの字」のマチが付いた一般的な名刺入れだが、このマチが使いづらい。名刺を入れる時に干渉したり、マチがあるために斜めに名刺が収納されてしまったり。

ラウンドジッパーのロングウォレット、札入れのマチでも同じ経験をしたことがある。紙幣がマチのこっちに来たり向こうに行ったり……。

ショートウォレットでは小銭入れなどに同様のマチが使われることが多いが、「OG-9」では許されない。

そもそも内側に折り込まれたマチは、より広く開口するために使われるディテールだ。だが、大きく開くウォレットが使いやすいとは限らない。それを「OG-9」で実証する。密かな楽しみでもある。

サンプルは何度でも作る。

構造確認用とはいえ、深夜のウォーキング時に思い描いたウォレットがカタチになった。嬉しいものだ。

だが、これは叩き台に過ぎない。ここから、追い込んでいく。実際にカードと紙幣、小銭を収納し、亀太郎氏と共に検証する。寸法や仕様だけでなく、デザインも美しくなければいけない。

例えば上写真。カード&紙幣の収納部、指で掴みやすいように半円状の切り込みを入れたが、すこぶるイケていない。やはり、直線の方が無骨で好きだ。

修正すべき点は数多い。気になる点はすべて修正する。何度でもサンプルを作る。価格の大小に関わらず、大切なお金を払い、プロダクトを手にしてくれるブラザーがいる限り、こちらも本気でモノ作りに向かい合う。最高のプロダクトを届ける。

だから、サンプルは何度でも作る。