求められるのは、集中力と忍耐力。
いよいよ、木工に精通した彼らの技を、存分に発揮してもらう時が来た。栃木サドルを巻き付けたハンガーに、太鼓鋲をぎっしりと打ち込むのだ。
頭径9ミリ、小さな真鍮製の太鼓鋲を真っ直ぐに打ち込むのは、意外にも難しい。そのため、事前に下穴を開けてからの作業となる。だが、下穴にも高い精度が求められ、少しでも穴が大き過ぎれば、太鼓鋲は簡単に抜け落ちてしまう。
徳永代表は人知れず検証を繰り返し、頭径9ミリの太鼓鋲を打ち込むのにもっとも適した下穴の直径と深さを導き出してくれた。
ボトム、そしてフロント中央。ハンガーをしっかりと固定し、垂直に穴が開くよう、慎重にドリルの刃を下ろしていく。抜き型のガイドピンで付けた印が、役に立つ。
このハンガーの全製作工程を見届けたオガワの率直な感想だが、この下穴を開ける作業がもっとも大変だと感じた。
カーブで構成されたハンガーに対し、常に垂直にドリルの刃を下す。求められるのは集中力と忍耐力、次第に精神が削られていく。一点を凝視するため、目も疲弊する。そして、ドリルの刃を静かに下す右手、ハンガーを固定する左手、両手にダメージが蓄積されていく。
そんな職人泣かせのプロダクトにも関わらず、何ひとつ文句を言わず、オガワのワガママに最後まで付き合ってくれる徳永代表と原山氏。本当に感謝しかない。
ドリルで開けた下穴に太鼓鋲を刺し込み、仮止めする。そして専用の工具を被せ、ハンマーで打ち込んでいく。
この専用工具、実は徳永代表が自作したオリジナル。工具先端は今回使用する太鼓鋲の頭の形状に合わせて窪んでおり、ぴったりと密着させて打ち込むことができる。力が均等に伝わり、失敗を最小限に抑えてくれるのだ。
前々回のレポートでオガワも経験済みだが、ハンマーで直接叩くと、打点が中心から少しでもズレると頭がぐにゃりと曲がってしまう。そして革に傷が付いてしまう。
美しく安定した仕上がりを追求する職人魂、何とも心強い。
太鼓鋲を打ち終えたボトムを確認する、徳永代表と原山氏。太鼓鋲の並び、打ち込み角度、深さ……、気になる点があるとメモを取り、本生産に備える。
ハンガーのフロント中央も同様に、太鼓鋲を仮止めした後、専用工具で打ち込んでいく。
「革巻き」から「革巻きスタッズ」へ。
これまで「革巻きハンガー」と称してきたプロダクトが、遂に「革巻きスタッズハンガー」へと昇華した。脳内に描き続けたプロダクトが、職人の手によってカタチになる瞬間に立ち会えた喜び。この仕事をしていて、もっともワクワクする瞬間でもある。
彼らが魂を込めて打ち込んだ太鼓鋲の総数、129本。
ありがとうございました。