貴重な天然素材を使い切る。

「OG-22」「OG-23」Crocodile Wallet

感謝とリスペクトが生んだプロダクト。

2023年に発表したクロコバッグ「OG-19」。ひとつのバッグを製作するのに必要なクロコダイルは2枚半。実際には3枚のクロコダイルを用意し、上写真のような感じで裁断を行っている。

バッグのメインパーツ(2枚)は、クロコダイルのもっとも貴重な部位である腹部を使用。マチやハンドルは、首や尾から裁断している。上写真では大判のメインパーツ以外、型紙が各1枚しかないが、基本的に2枚もしくは4枚の同パーツを切り出す。

注目して頂きたいのは左端にある3枚目。クロコダイルの状態によって臨機応変に裁断箇所を調整しているが、3枚用意したクロコダイルのうち1枚の腹部は使わずに残る。

いかに「OG-19」が贅沢なバッグであるか、おわかり頂けるだろう。近日、オーダー受付を開始する「OG-19/BROWN」も同様の裁断を行い、仕立てられることは言うまでもない。

裁断後のパーツに傷が見つかったことで急遽使用したものも複数枚あるが、最終的にオガワの手元には30枚近くの腹部を使用しなかったクロコダイルが残った。

表面のキズやダメージ、腑の乱れなどにより、バッグのメインパーツとして使用しなかったクロコダイル。該当箇所には青いテープでマーキングしている。

だが、極めて品質が高い、貴重な天然のマテリアルであることに変わりはない。使うことなく役目を終えることがあってはならない。可能な限り使い尽くすことが、生き物への感謝。そして、鞣し職人、染め職人へのリスペクトでもある。

極上ウォレットに仕立てる。

迷うことなく、ウォレットを仕立てることに決めた。大きな傷は避けるが、耐久性に影響のない傷はそのまま使う。個性と受け取れる「腑の乱れ」もそのまま使う。

ベースにするのはラウンドジッパーショート「OG-9」、そしてラウンドジッパーロング「OG-18」。オガワが日常的に愛用している、ふたつのウォレットだ。

両ウォレットともサンプルを何度も作り、使用テストを繰り返して辿り着いた「今この瞬間の理想形」。デザインやディテールを変更する必要はない。変更すべきは内部カラー。ブラックのクロコダイルに合わせて、内部の栃木レザーもブラックに変更。緊張感すら漂う、アダルトなウォレットを目指す。

不安な点もある。オガワがこだわる「ヘリ返し」のエッジだ。デパートの紳士服売り場の片隅に置いてあるビジネス財布のように、革を極限まで薄くしたヘリ返しであれば何の問題もない。だが、オガワが求めるのは、肉厚で耐久性を損なわず、「視覚」「触覚」「所有欲」を満足させる力強いヘリ返しだ。

クロコダイルは場所によって鱗状の硬い部分がある。手縫いでヘリ返しができるのか。ヘリ返し部分に裂けや割れが発生しないか。不安は尽きない。不安がある以上、リリースすることはできない。そんな無責任なモノ作りは、ブラザーに失礼極まりない。

不安要素を払拭するには、サンプルを作り、オガワ自身が徹底的に使用テストを行うしかない。さっそく亀太郎氏の工房を訪ね、プロダクトの企画趣旨、オガワの脳内イメージを伝え、サンプル製作を依頼した。

数日後、亀太郎氏からLINEが届いた。「できる男は仕事が早い」とは、まさに亀太郎氏を指す言葉なのか。端材でテストした、ヘリ返しの画像が添付されていた。そこには、縫いは施されていないが、厚みを確保しつつ、美しく処理されたヘリ返しのエッジが写っていた。

そして、待望のサンプル完成。

ウォレットが放つ圧倒的存在感に言葉を失った。馬革を使用した「OG-9」も「OG-18」も素晴らしいが、クロコダイルの迫力は別格。感無量。

その極めて高い完成度の裏には、百戦錬磨の革職人、亀太郎氏の経験と技が存在する。「9」や「18」で使う馬革と、今回使用するクロコダイルでは、硬さ、コシ、伸びがまったく異なる。

そのため、亀太郎氏は芯材や各パーツの革厚をコンマミリ単位で調整。クロコウォレットにもっとも相応しいカッチリ感を導き出してくれた。

手縫いによる仕立てはさらに困難を極める。両ウォレットとも、ラウンドジッパータイプではあるが5センチ程しか開口しない。硬いクロコダイルのテンションを保ちながら、一針一針縫い進める。その難しさは、レザークラフトの技術を持たないオガワでも想像に難くない。

2か月間の使用テスト。

2024年5月15日。この日は一粒万倍日、大安、天恩日、大明日、母倉日、5つの吉日が重なる5月の最強開運日だった。使用テストを開始するには最高の日だ。

バックポケットにすっぽりと収まるショートよりも、上部が露出してダメージを受けやすいロングで使用テストを行うことにした。

使用テストは徹底的に使い込むことが絶対条件。普段よりもラフに扱い、ダメージの確認、検証が必要となる。

クロコダイルという高額素材ゆえ、丁寧に扱おうとする心の中のリトルオガワと戦いながら2か月間、7月15日まで使用テストを行った。大阪、岡山、名古屋、長野の出張にも連れて行った。

不安要素だったヘリ返し部分の裂けや割れは皆無。当然、ウォレット四隅には擦れは見られるが、剥がれのようなダメージは無く、表面が綺麗に擦れている。想像以上にタフなマテリアルであることを確認した。

そして、通常使用によって生まれた傷、日に日に輝きを増す黒艶が、所有欲をビンビンに満たしてくれた。もはや何ひとつ迷いはない。このふたつのウォレットに品番を与えることにした。

Crocodile Short Wallet「OG-22」
Crocodile Long Wallet「OG-23」

新たなプロダクトが誕生した瞬間だった。