「ミシン縫い」から「手縫い」へ。

「OG-8」Leather Walet

優劣ではなく、欲求。

レザーウォレットの仕立てには「ミシン縫い」と「手縫い」がある。個人的な見解を述べると、それぞれの「仕立て」「技術」に優劣はないと思っている。それぞれの手法に、職人たちが長年培ってきた技が惜しみなく注ぎ込まれ、極めようとすればゴールの無い奥深い世界である。

「OG-3」は「ミシン縫いではこの人以外に考えられない」との思いから、名古屋のレザーファクトリー「MANIFOLD」(マニフォールド)の宮本代表に仕立てを依頼した。

その完成度の高さは今さら説明の必要もない。オガワの脳内のイメージが、完全なカタチとなって目の前に現れた事実。見た目の美しさだけではない。「OG-3」を使い込んだ1年間、365日という時間が、ウォレットとしての機能性の高さを実証してくれた。

だが、人間という生き物は欲深い。いや、オガワが欲深いのか。

「OG-3」に惚れれば惚れ込むほど、「もし手縫いだったらどんな表情を見せてくれるのだろうか」という気持ちが湧いてきた。「ヘリ返し」を手縫いで仕立てるという、オガワ自身も見たことがないディテールにも、興味が湧いた。

伝説の職人を訪ねた。

その男の工房は、東京都足立区、西新井大師の近くある。レザーファクトリーにありがちな煩雑さはなく、工具や工作機器、革素材が、もっとも効率的な場所に整然と並ぶ。それが、モノ作りにおいて最高のパフォーマンスを発揮するための環境づくりであることは、想像に難くない。

彼の名は神岡政之。「亀太郎」の愛称で数々のレザープロダクツを生み出してきた、伝説のレザークラフツマンだ。

私が「Daytona BROS」の編集長時代、一世を風靡したレザーウォレットがあった。そのレザーウォレットは、新品時は板状。購入者はウォレットを折って使い始める。この「折る」という行為を儀式化し、全国のレザーラヴァーたちを熱狂させた。

そのブランドの「最高峰モデル」や「オーダーメイドモデル」を手縫いで仕立てている職人こそ、亀太郎氏である。亀太郎氏が仕立てたモデルだけをコレクションする熱狂的ファンが存在するほど、業界ではカリスマ的な職人である。

「コバの神」に「ヘリ返し」を頼む。

亀太郎氏はレザークラフトのすべてに精通した職人だが、なかでも「コバ磨き」は業界随一と言って過言ではない。上は亀太郎氏が仕立てた手縫いウォレット。長年の経験で培った処理、手際、力加減で磨き上げたコバは、まるで一枚板を切断し、磨き上げた木工品のようだ。

そんな「コバの神」に、あろうことか、馬革を折り返して仕立てる「ヘリ返し」を頼む。しかも手縫いで、だ。

亀太郎氏との付き合いは長いが、さすがに断られるかもしれない。半分、ダメ元で依頼したところ、意外にも快諾。しかも「おもしろそうだ」と不敵の笑みを浮かべている。

聞けば、百戦錬磨の亀太郎氏をもってしても、厚みのある馬革を、革ジャンの袖口のような「ヘリ返し」で縫い上げ、ウォレットに仕立てたことはないと言う。

滲み出る、絶対的自信。

ミシン縫いの「OG-3」をひと通り確認した後、「問題ありませんよ」とポツリ。物静かではあるが、その言葉からは絶対的な自信が滲み出る。

同じ素材、同じサイズ、同じデザインのウォレットでも、「ミシン縫い」と「手縫い」ではピッチや仕立ての方法も微妙に異なる。パーツの裁断寸法を変更する必要も出てくる。

勝手な推測だが、ミシン縫いの「OG-3」の各部を確認しながら、亀太郎氏は瞬時に製作プロセスをイメージし、脳内で手縫いのそれを仕立て上げたのだろう。そして、不敵の笑み。

伝説の職人が「Original Garment Brothers」のプロダクトを仕立ててくれる。以前から亀太郎氏を知るオガワとしては、この上ない喜びであり、感動。

一度自宅に戻り、「OG-1」の馬革を亀太郎氏の元へ手配。事前に裁断を行ってもらい、仕立ての工程を後日撮影させてもらうことにした。