それは突然の出会いだった。
2021年3月、ワイツーレザーの本社で打ち合わせをしていた時のことだった。一着のジャケットがオガワの目に飛び込んできた。それが上に掲載している「G-1」だ。
ムラが強い赤茶色。聞けば、職人の手塗りによる染色。間違いなく着込めば抜群の風合いになる。しかも、手染めなので色味やムラの強弱も自由に設定できるという。
これしかない。反射的にそう確信した。
風合いや質感を考えると、「OG-2」と同じフルベジタブルタンニン鞣しがいい。手染めで赤茶色を再現した後に、割り(漉き)によって厚みを均一に揃える。さらに、タイコで揉み込んで「シワが浮きたくてウズウズしている瞬間」に仕上げたい。
いずれにしても、今までのレザーJKTとは一線を画す、新境地。未だ見ぬ馬革の10年後の姿を妄想して、鳥肌が立った。
フライトJKTである「A-2」から、エポレットや首元のフック、ジッパーを覆う前立てを省略する。つまり、ミリタリーウエアとしての要素を消去すると、いわゆる「オヤジジャンパー」になる。
ファストファッションが当たり前の時代になり、冬場、街ですれ違うオヤジたちもダウンやフリースを着ていることが多くなった。だが、オガワが幼い頃に見たオヤジたちは、決まって薄っぺらい革ジャンを羽織っていた。
さすがに薄っぺらい馬革は使わないが、生活感が滲み出た、今風に言えばライフスタイルに溶け込んだ「革ジャンパー」。そこを目指す。
昭和の名俳優たちが、ドラマや映画で着ていた、革ジャンパー。体のラインがわかるほど、タイトに着こなす革ジャンパー。今あらためて見ると、シブいと感じるのは自分だけだろうか。
と、ここまでが「The Magazine 001」に掲載した文章(修正、加筆あり)である。
挑戦的なムラから、理想のムラへ。
それにしても、なんと挑戦的なムラだろうか。この強烈なムラを放つ馬革で「G-1」を仕立てたワイツーレザーの潔さ。挑戦を忘れないブランドスピリッツ、世界中のレザーラヴァーに対応する守備範囲の広さをあらためて痛感させられた。
15年前、いや10年前のオガワであれば、間違いなくこの挑戦的なムラで「OG-15」を再現しただろう。だが、50を目前にした今のオガワには、少々ムラが強過ぎる。
この表情では、10人に出会えば10人に「ムラの理由」を説明することになるだろう。そこを、できれば、出会った10人のうち3人に熱弁をふるう塩梅に収めたい。そこで、手染めの味わいを残しつつ、もう少しオガワのイメージに近い「ムラ」を再現してもらうことにした。
だが、これが実に難しい。なにせ、手作業で染料を塗り込むのだ。すべては手染め職人のさじ加減。
そこで「G-1」に使われている馬革において、オガワのイメージに近い「ムラ」「赤み」の部分を指定。実際に手染め職人に見てもらい、「全体的にこの雰囲気で」とリクエスト。それが上写真、丸枠で囲んだ袖部分だ。実にピンポイント。
非常にアナログな方法だが、感覚や数値による指示よりも、確実で信頼できるイメージの共有手段であることに間違いはない。
そして数か月後、オガワの元にドラマチックな馬革が届くことになる。