1.3ミリ均一に割る。
2020年から「Original Garment Brothers」のレザーJKTに使う馬革は、すべてに「割りの一手間、揉みの一手間」を加えている。
過去のレポートでも説明しているが、若かりし頃からレザーJKTに魅せられたオガワは、今まで何十着というレザーJKTに袖を通してきた。
その過程で、例えば右袖と左袖、右身頃と左身頃、部位による革厚に明らかな違いがあるジャケットに出会ってきた。「天然素材の醍醐味」と片付けるのは簡単だが、根が神経質なオガワは、正直、納得ができなかった。
そこで、自らが企画するレザーJKTの馬革には、厚みを均一に揃える「一手間」を加えている。タンナーで仕上げられた半裁の馬革を漉き屋に送り、割り職人によって1.3ミリ均一に漉いているのだ。
もちろん、馬革は部位によって繊維密度が異なるため、「均一な厚み=均一な硬さ」ではない。だが、ピタリと1.3ミリに厚みが揃った馬革は、絶対的な安心感と安定感をもたらしてくれる。
タイコで回し、揉み込む。
オガワは新品の馬革JKTを手に入れると、とにかく揉み込む。優しく、根気よく揉み込んでいく。
馬革の繊維を地道にほぐしていく感覚に近い。迎えたばかりの相棒を細部までチェックし、革質や表情をじっくりと確認する意味もある。揉み込むことで、ステッチ部の縫製糸と馬革を馴染ませる効果もあると考えている。
レザーJKTとの付き合い方は人ぞれぞれだが、新品のジャケットに初めて袖を通し、無理に腕を組むなど、急激な負荷を掛けることはお勧めしない。オガワは絶対にやらない。
馬革JKTとは長い付き合いになる。じっくりと焦らず、馬革を馴染ませていく。手で揉み込む行為とは、新車の慣らし運転のようなものだ。
個人事業主のオガワは自由な時間も多い。そのため、毎日数時間、何日も揉み続けていることも珍しくはない。
揉み終えた馬革は格段に柔らかくなり、表面には無数の微細なシワが浮き始める。この状態から着込むことで、微細なシワがより深く刻まれ、迫力の表情を見せてくれることは想像に難くない。
ある日、ふと思った。大半のブラザーは日々の仕事があり、オガワのように1日中、馬革を揉み込むことはできないはずだ。ならば、少しでも揉み込んだ状態に近い馬革を作れないものか。
ファクトリーであるワイツーレザーの梁本社長に相談した結果、さらに一手間を加えることにした。漉き屋で1.3ミリ均一に漉いた半裁の馬革を、再びタンナーに戻し、大きなタイコに入れて回し、揉み込むのだ。
タンナーから漉き屋、再びタンナーへ。手間と時間はもちろん、作業や輸送にはコストが掛かるが、理想の馬革JKTを作り上げるためには、そんなことを気にしている暇はない。
タイコで回し過ぎれば、不自然で人工的なシワが刻まれる。回しが足りなければ、微細なシワも浮かない。何度もテストを繰り返し、タイコで揉み込むベストな時間を導き出していった。
ようやく辿り着いた、理想の革質。
割りの一手間、揉みの一手間を加えた馬革は、オガワが何日も掛けて手で揉み込んだような微細なシワが浮き、さらに深いシワが刻まれる直前の状態へと昇華した。オガワは親しみを込めて「シワが浮きたくてウズウズしている瞬間の馬革」と呼んでいる。
「素上げ」「手染め」を問わず、今シーズンの馬革にも「割りの一手間、揉みの一手間」を施すことは言うまでもない。