シワが浮きたくてウズウズしている馬革。
2018年に「Original Garment Brothers」を立ち上げ、丸5年。馬革JKTの発表は6シーズン目を迎える。デザインもマテリアルも、そろそろ新しい景色が見たくなってきた。言葉で説明するのは本当に難しい。語彙力の乏しさゆえ、適切な表現が浮かばない。脳内に描く景色をそのまま言葉に変換するなら「着込むより着潰す」「端正よりもシワくちゃ」「妖艶よりも荒々しさ」となる。
天然皮革を使ったジャケットは非常に高額だ。誰もが大切に扱う。オガワ自身「傷だらけになるまで」という言葉を何百回も使ってきたが、実はこれが一番難しかったりする。当然だ。馬革が傷付けば心が凹むし、雨に濡れれば心配になる。ジャケットの小さなダメージを見つけては、不安に押し潰されそうになる夜もあるだろう。だが、それらの不安やリスクを超えた先に、レザーJKTの本当の醍醐味があることも事実だ。
「個体差、革質、傷、ダメージに対する不安がすべて脳内から消えた瞬間、その男のレザーJKTは世界一カッコ良くなる」。オガワの持論であり、オガワが考える、革に魅せられた男の在るべき姿。
ワーク然とした骨太な一着を作る。シワくちゃになるまで着潰し、表面が擦れ下地が剥き出しになっても、片時も手放したくないと思える一着。ベースとなるモデルは既に決まっている。その一着のために、まずは新たな馬革を仕込んだ。
フラッグシップモデル「OG-2」で使っている馬革とは、異なるタンナー、異なるレシピ、そして異なる匠。ゼロからの構築だ。
メリハリを効かせる、明るめの茶下地。
上質な原皮をフルベジタブルタンニンで鞣す。最初にこだわったのは、茶下地の色。「OG-2」に使う馬革の下地はダークブラウンだが、新たな馬革はライトブラウン。試行錯誤の後、少しオレンジを帯びた理想のライトブラウンに辿り着いた。
上写真。従来の馬革との違いを説明するため、新たな馬革の表面を擦ってみた。そして、従来の馬革を使って仕立てたウォレットと比較する。見えにくいので、もう少し拡大しよう。
従来の馬革は渋みの効いたダークブラウンが現れる。一方、新たな馬革はコントラストの効いた、少々ヤンチャなエイジングが手に入る。好みはあるが、ワークテイスト溢れる一着には抜群にマッチするはずだ。
さらに、新たな馬革は「ハンドフィニッシュ」で仕上げている。「赤馬」のようにすべての染料を刷り込む「手染め」ではないが、一度ベースのブラックに染めた後、職人が最終仕上げを「手染め」で行っている。これにより、表情豊かな黒馬が誕生する。
限界までタイコで揉み込む。
仕上がった馬革を1.3ミリに割り、厚みを均一に整える。人間誰しも年をとる。オヤジになると、若い頃は好んで着ていた分厚い革が苦手になる。だが、薄っぺらい質感では所有欲が満たされない。着心地と質感、強度を考慮した、オガワにとっての「黄金厚」が1.3ミリなのだ。
オヤジのための「ひと手間」まだ終わらない。大きな半裁の馬革をタイコで空打ちし、揉み込む。密に絡み合った繊維が程良くほぐれ、驚くほどしなやかになる。無数の小皺が浮いた表情は、まさしく「シワが浮きたくてウズウズしている瞬間の馬革」。オガワが考える馬革の理想形だ。
今回はさらに突き抜ける。職人に「これ以上回しても、もう変化はしない」と言わしめるほど、徹底的に空打ちに時間を費やす。少なくとも従来の倍以上の時間、タイコを回し続ける。
新たな馬革に鳥肌が立った。きめ細やかな柔らかさ。コシがある男前な表情。相反する要素を融合した馬革。「OG-2」に使う従来の馬革と双璧をなす、「Original Garment Brothers」を代表する「黒馬」の誕生だ。
上はシボ部分を撮影したものだが、まるでディアスキンのような表情だ。シボが少ない部位でも細かな無数のシワが刻まれ、将来に期待が持てる。
擦れにさえ、萌える。
予めご理解頂きたいことがある。長時間、タイコで空打ちするため、革と革の接触によって上写真のような「擦れ」が発生することがある。ファクトリーであるワイツーレザーからは「レタッチを施す予定」と説明を受けたが、あえてそのまま仕立てて欲しいとリクエストした。
もちろん、強度や耐久性に影響する大きな擦れは裁断で弾くが、品質に問題がない「擦れ」はそのまま使う。
もったいない。この擦れにも、オガワは萌えるのだ。