試行錯誤の彫刻工程。

「Tiger Mint Case」(End)

下絵が完成したらミントケースへの彫刻作業に入る。まずは下絵をミントケースに写すわけだが、懐かしいカーボン紙を使うことにした。今の20代は知らないかも知れないカーボン紙。紙と紙の間に挟んで複写するための感圧紙。原始的な仕組みだが、小さい頃はよくカーボン紙で色々なものを写し、無駄遣いして親に怒られたものだ。

手順は簡単。ミントケースの大きさにカットした下絵のコピーを、カーボン紙を挟んでミントケースに固定。ボールペンでなぞると下絵が転写される。1枚のカーボン紙を流用して、2個目、3個目のミントケースへの転写に使うと、転写した虎が滲んでしまう。やはりモノ作りに横着は禁物。少々もったいないが、カーボン紙と下絵コピーは1回限りでお役御免となる。

ルーターは以前から所有していたプロクソン。ビットと呼ばれる先端部分を交換することで、彫りも穴開けも研磨もできる優れもの。星の数ほどのビットが存在するが、どれを付けばいいのかわからない。結局、真鍮板を買ってきて、色々なビットをテスト。一番作業がしやすいビットをチョイスした。

百聞は一見にしかず。近々、製作風景の動画をアップするので、細かくはそちらでご確認頂くとして、彫刻時にもっとも頭を悩ませたのが、彫りの深さだった。

アメカジには不思議な風潮があり「適度」より「極限」がもてはやされる。決して間違ってはいないが、すべてに当てはまることでもないと痛感した。テストを兼ねて試作製作に取り掛かった際、虎の彫りを極限まで深くしてみた。技術的に難しいことではない。同じラインをゆっくりと、力を入れてルーターで削ればいいだけだ。

ところが、頑張りすぎたようだ。

完成した虎の輪郭を見ると「線」ではなく「点の繋がり」になってしまっている。虎を彫ることよりも、深く彫ることを意識しすぎた結果の失敗。とは言え、彫りが浅すぎると重厚感が欠落する。絶妙な彫りの深さとは、どの程度なのだろうか。

使用するビットを変更し、数個のオリジナルミントケースをサンプルと割り切り、テストを繰り返す。そのうちに具合のいい深さが見えてきた。

ケース表面を触ると感触で彫りを確認でき、爪でなぞると引っ掛かる深さ。ルーターで彫った穴(点)が微妙にわかるハンドメイド感に溢れたライン。この深さが、もっとも自然であり、手作り感に溢れ、かっこいいと信じている。

それにしても指への負担が半端無い。後日アップする動画では何気なく彫っているように見えるが、本当は右手も左手もプルプル状態。少しでも気と力を緩めるとケースが暴れてしまう。自らモノ作りを経験することで、何年、何十年と同じ作業を繰り返すモノ作りの職人たちへのリスペクトが、より一層強まったのだった。