相棒と呼べる一着、呼べない一着。

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中学生時代からアメカジに興味を持ち、やがてアメカジ雑誌の編集長となった。その30年間で、様々なプロダクトに接し、愛用してきた。ジーンズにTシャツ、ブーツ、レザーウォレット……。なかでもレザージャケットには心底夢中になった。

初めて購入したレザージャケットは、高校一年の時に買ったエアロレザーの「A-2」。アメ横の中田商店でドキドキしながら購入した記憶がある。以来、国内外を問わず様々なブランドのレザージャケットに袖を通してきた。

ところが、不思議なことに気が付く。ジーンズやブーツ、レザーウォレットは何年も同じモノを愛用しているのに、なぜかレザージャケットだけはすぐに浮気してしまう。2シーズンも着ればいい方で、1シーズンでクローゼットの飾りとなってしまうレザージャケットも多かった。理由はすぐにわかった。

5ポケットという絶対的な基本スタイルが決まっているジーンズ、細かなディテールには差異があるものの絶対的なサイズ感が決まっているレザーウォレットに比べ、レザージャケットは実に多彩。フライトジャケット、ライダース、ウエスタン調、デニムJKT系、コート類……それぞれのカテゴリーの中にも星の数ほどのスタイルが存在する。ゆえに、色々なジャケットに目が行ってしまうのだ。

「それこそアメカジ好きの証」と言ってしまえばそれまでだが、10万円以上もするレザージャケットを毎年買うのは少々厳しい。波のように押し寄せる物欲を抑えるのは、もっと厳しい。何よりも、革ジャンは着込んで味を出してこそ革ジャンなのである。1年など論外、2年、3年でも着足りない。頭ではわかっているが、気まぐれな気持ちには勝てない。エイジングを楽しむことなく手放したレザージャケットは数知れずとなった。

運良く、自分が理想とするスタイルの一着に出会えたとしても、本当に100%満足しているのか。高いお金を払ったから、満足した気になっているのではないか。無理に肯定しているのではないか。

「ここにポケットがあれば便利だ」
「襟がもう少し小さければ」
「ジッパーは真鍮色が良かった」
「ここは1枚革にして欲しかった」
「このラベルのデザインは嫌いだ」
「裏地が残念」

心の奥底には自分なりの理想が存在しているのではないか。少なくともオガワは、常にそのよう気持ちを抱きながらレザージャケットと接してきた。喉の奥底に小さなトゲが刺さったかのように。

すべての面において100%満足できるプロダクトに出会える可能性など、長い人生においてもゼロに近いことも知っている。最初は「小さなトゲ」に思えていた理想とのギャップが、「愛らしさ」「愛着」に変わっていくことも知っている。だが、常に「自分ならこう作る」という気持ちが存在していたことも紛れも無い事実なのである。