裁断がすべてを決める。

Original Leather JKT Project

かなり以前だが、とある雑誌で読んだことがある。ヴィンテージのライダースジャケットは、左右どちらかの前身頃にシワが集中していることが多いと。フライトジャケット「A-2」にもその傾向があるとも書かれていた。原稿を執筆したライターの検証では「パーツ裁断時、同じ場所に型紙を置く傾向があったからではないか」とされていた。

つまり、作業台に革を置き、システマチックに型紙をポンポン置いてパーツを切り出す時、どちらかの前身頃の型紙がシワが多い部分に置かれることが多かったためというのだ。確かに、当時の生産現場で「シワを避けて」「キズを避けて」と一手間加えることは考えにくい。裁断師はスピードと効率を最優先し、毎回決まった場所、ルーティンで型紙を置いたはずだ。戦時中に生産された「A-2」であればなおさらだ。その雑誌だけでなく、他でも同様の記事を見掛けたことがあるので、間違った説ではないのだろう。

ヴィンテージを意識したブランドが作り出すレザージャケットを見ると、片側の前身頃にシワが集中していることがある。個体差のリスクがあるために公言しないことも多いだろうが、明らかに片側の前身頃に意識的にシワを配置し、ヴィンテージの雰囲気に近づけている。革だけではない。細かなデザインやディテール、パーツまで、徹底したこだわりと再現力。ヴィンテージへの探究心には頭が下がる。

でも……オガワはヴィンテージに興味がない。

アメカジ業界のプロダクトは、ヴィンテージをモチーフにすることが多い。5ポケットのジーンズしかり。ヴィンテージが今日のアメカジを築き上げたと言って間違いはないだろう。

だが、ヴィンテージならすべて良いのだろうか。ヴィンテージのディテールすべてが現代にマッチするのだろうか。ヴィンテージを意識する余り、ダサいポケットや不要な装飾が付いたレザージャケットを数多く見てきた。ヴィンテージ愛好家にとっては垂涎のディテールかもしれないが、「これがなければいいのに」と思う人も多かったはずだ。よって、「Original Garment Brothers」がワイツーレザーと進めている理想のレザージャケット作りにヴィンテージの要素が入り込む余地はない。

ただし、シワは別だ。

ヴィンテージのレザージャケットに見られる前身頃のシワ。こいつは欲しい。だが、片側だけでは物足りない。左右の前身頃に欲しい。深く荒々しいシワが刻まれた袖も大好物だ。そして、襟。レザージャケットは正装ではなく装備だ。ピシッとした襟よりも、シワが走りヤレた襟がかっこいい。

ワイツーレザーの裁断師である山田氏にこの要望を伝えた時、「革のシワやキズを見ると手が無意識に避けようとする。これはハードルが高いよ」と笑った。この道何十年の職人に対して、これほど想定外の依頼はないだろう。もしかしたら失礼な依頼だったかもしれない。それでも「このシワは大丈夫か?」「このキズは許容範囲か?」とオガワのイメージを共有しようとする姿勢に職人魂を見たのだった。

サンプルアップした馬革に向かう裁断師の山田氏。型紙を置き、包丁を立てる。その姿に迷いはない。いや、もしかしたら迷いや葛藤はあるのかもしれないが、微塵も感じさせない包丁さばき。そして切り出された、シワの多いパーツ。感無量。

これだけは事前にお伝えしておきたい。

馬革は同じ表情がふたつと存在しない、唯一無二の素材だ。1枚1枚状態も異なり、シワが多い馬革、少ない馬革が混在する。可能な限りシワを楽しめる部位を使うが、すべてがイメージ通りにいくとは限らない。

そんなリスクすら楽しめる馬革偏愛主義者でなければ、この一着をすすめることはできない。