逆境をプラスに変える。
2020年、新型コロナウイルスによって、我々の日常は激変した。日に日に増える感染者数、そして緊急事態宣言。昨年は1〜2か月に一度は訪れていた児島に行くことができない。
ならば、ここぞとばかりに自宅でファーストサンプルを穿き込み、改良点をさらにあぶり出す。焦る必要はない。穿き込む時間も、考える時間も、たっぷりある。
その結果、追加で2か所、改良を加えることにした。
ひとつは、スレーキの生地色。前回レポートで「フロントポケットが浮き上がり、スレーキが丸見え」とお伝えした。そこで、ポケットの角度を修正すると共に、スレーキの生地色そのものを目立たないブラックに変更することにした。
ふたつめは、バックポケットの補強。肉厚なレザーで仕立てたウォレットを愛用していると、バックポケットが擦れて、穴が空くことがある。その対策として、スレーキに使う黒生地でバックポケットを補強することにした。
解消された「ポケットの浮き」。
2020年5月。オガワがリクエストしたすべての修正点、改良点を反映した、待望のセカンドサンプルが届いた。さっそく穿いてみる。いい雰囲気だ。
一番気になっていたフロントポケットの浮き。実際に椅子に座ってみると、上写真の通り、見事に解消されている。
(上:ファースト/下:セカンド)
スレーキを黒生地に変更したため、ポケット内部が目立つこともない。黒生地はブラックのヘリンボーン。このディテールのために、白いヘリンボーンをブラックに染め上げた、特別な生地だ。
バックポケットの補強にも、スレーキと同じブラックヘリンボーンを使う。これで安心してレザーウォレットをねじ込める。さらに、ポケットの取り付け角度を若干「逆ハの字」にしたことで、穿いた時に横一線に揃うようになった。
「後戻り」という「進化」。
だが、修正して初めて気付くこともある。バックポケットのステッチラインだ。上写真、右がファースト、左がセカンドだ。
直線的なファーストのステッチに比べ、隠しリベットを小刻みに避けて走るセカンドのステッチ。この作為的なラインに、どうしても魅力を感じることができない。イケてない。
ならば、戻す。
2本を比較すると、ファーストの素朴で潔いステッチラインが一層際立つ。オガワの指示通りに修正してくれたパタンナーと縫製職人には申し訳ないが、直線を基調としたファーストのラインに戻すことにした。
次回は、革パッチ製作。
セカンドサンプル到着の少し前から、革パッチの製作に着手していた。写真のサンプルに置かれているのは、クラフト紙に印刷したイメージ確認用のダミーだ。
革パッチに対する個人的な思い、新たなアイデア、革素材やデザインについては、次のレポートでご報告させて頂く。