革パッチに何を求めるか。
今回の「OG-10」に限らず、自分が企画するプロダクトに「Original Garment Brothers」の名を入れることに抵抗を感じることがある。商標登録も完了しているこのネーミングには、揺るぎない誇りと絶対的な自信を持っている。
だが、オガワのモノ作りに共感してくれたブラザーが、愛情を持って使い込み、ライフスタイルやストーリーが刻まれて、初めて唯一無二のプロダクトが完成する。はたして、そこにブランド名やロゴは必要なのか。
そんな偏った理由から、当初、このデニムパンツにも革パッチや織りネームの類は付けないつもりでいた。
一方で、経年変化によって飴色に底光りする革パッチには、革好きとして心踊るものがある。デニムの色落ちと同様、日々変化する革の表情は、日常に刺激を与えてくれることも確かだ。
そして、ライフスタイルが刻まれた愛用のデニムパンツを夜な夜な眺める時、腰元の革パッチが所有欲を増幅させるスパイスになるかもしれない。
付けよう。
ただし、普通の革パッチではつまらない。経年変化を楽しめること。そして、オガワ自身が長年思い続けてきたことを、この際、カタチにしてみようと思う。
浪漫を感じる革パッチを作る。
一般的な革パッチには、ブランド名やロゴに加え、「品番」「サイズ」「レングス」がスタンプされる。「品番」「サイズ」は後々確認することもあるが、どうにも「レングス」の必要性を感じない。
レングス、つまり股下の長さだが、足の短いオガワはいつもダイナミックに裾上げを施す。レングスをわざわざ確認したことはない。足の長い人でも、購入時に一度確認すれば事足りるだろう。
対して、デニムパンツを穿き始めると、決まって忘れてしまうことがある。穿き始めた年だ。2年前だったか、3年前だったか。必ず記憶が曖昧になる。
ならば、革パッチに穿き始めた年度をスタンプするのはどうか。レングスよりも、よっぽど役に立つ。
「L」ではなく「Y」。
これなら、革パッチを装着する意義がある。東京オリンピックが延期になり、新型コロナウイルスで世界が激変した、2020年。数年後、唯一無二の表情を見せる「OG-10」を眺めながら、激動の2020年を振り返る。
そこに小さな浪漫を感じてしまうのは、オガワだけではないはずだ。
山羊革の経年変化を楽しむ。
デニムの聖地、岡山児島には、デニムパンツに必要な副資材を扱う様々な企業が存在する。今回、革パッチの製作を依頼したファクトリーも、児島駅から程近い場所にある。
本来であれば直接出向き、打ち合わせを行うところだが、この時点で世の中は新型コロナウイルスによる自粛期間中。電話とメールでコミュニケーションを取り、オリジナルの革パッチをオーダーした。
デザインはイラストレーターで自ら作成した。シンプルを貫く。革の経年変化を最大限に楽しむには、印字面積は最小限に抑えたい。
色々と試したが、最終的に「O.G.BROS.WEB」のトップページに使用しているロゴを置き、「Lot」「Y」「W」の押印スペースを設けた。これだけで十分だ。
一般的な革パッチに使われる素材は、牛革、鹿革、山羊革などがある。その中で、オガワが選んだのは山羊革、つまりゴートだ。多くのアメカジブランドでも採用する定番中の定番。
革のサンプル帳を児島から取り寄せ、実際に触って確認したところ、山羊革がもっともイメージに近い質感だった。直感こそ、すべて。奇をてらう必要はまったくない。
最初はおとなしい革パッチも、ブラザーが穿き込み、山羊革がエイジングすることで、抜群の表情を楽しませてくれるだろう。
スタンプを発注する。
革パッチに押印するスタンプも必要だ。オリジナルのスタンプを作成してくれる業者は数多く、ネットで検索すればズラリと出てくる。
所有するデニムパンツの革パッチを事細かに確認したところ、押印される文字の大きさ(高さ)は5ミリがもっとも多い。書体はメーカーによって様々だ。
そこで、4ミリから6ミリまでの文字サイズ、様々な書体を、茶色のクラフト紙に印刷してイメージを確認してみる。
その結果、もっともバランスが良かった4.5ミリ、書体は定番の「ヒラギノ角ゴPro」に決定。品番の「OG-10」、年度の「20」、そして各サイズ。合計14個のスタンプをオーダーした。
本当に便利な世の中だ。わずか3日でオリジナルスタンプが到着した。さっそく、洗濯しても落ちない「不滅インク」を使って、実際の山羊革パッチにスタンプしてみた。
すこぶる、難しい。
位置のバランスと角度、力加減、そして不滅インクを付ける量。すべてが難しい。アパレルナンバには革パッチの押印に慣れた職人もいるが、ブラザーがオーダーしてくれた「OG-10」には、1本1本、自分の手でスタンプしたい。
革パッチは今後のために数百枚もオーダーしたので足りなくなる心配はないが、やはり1枚とて無駄にはしたくない。
練習あるのみだ。