理想のダイヤキルトを目指して。
選んだブラウンの馬革は、「フルベジタブルタンニン鞣し」「染料染め」で仕上げられた極上マテリアル。創業1951年、鞣しから仕上げまで自社一貫生産による世界有数の馬革専業タンナー、新喜皮革が手掛ける馬革だ。
「オイルが走る」独特な色ムラ、表情豊かなシワやシボが特徴。そして、シワが浮きやすい革質でもある。この革質を活かした「ひと手間」を加えることにした。
「OG-6」の象徴でもあるダイヤキルト。極力このパーツには大きなシワが入らないような裁断を心掛けるが、天然素材である以上、どうしても入ることもある。
そこで、目立ちそうな大きなシワが入る場合は、パーツ全体を手で揉み込むことで、あえて全体に細かなシワを均一に発生させ、バッグに仕立てた時の「見た目のバランス」「質感」を向上させようと考えたのだ。
染料で染めた今回の「茶馬」は、顔料で染めた従来の「OG-6」の「黒馬」よりも柔軟。そのため、手で揉み込むことで発生した細かなシワは、ダイヤキルトの膨らみによって目立たなくなる。この「茶馬」ゆえの「ひと手間」である。
実際にダイヤキルト部を製作して検証する。サンプル用に手配した馬革はそれほどシワが多くはないが、切り出した2枚のうち1枚を手でしっかりと揉み込む。
馬革にダメージを与えないように、銀面を転がすように丁寧に揉み込む。シワが浮きやすい革質なので、次第に美味しそうな小さなシワが生まれる。
上写真、左が揉み込んで全体にシワが浮いたパーツ。この馬革は「オイルが走る」ことで色味が変化する。具体的には曲がった部分の色が薄くなる。そのため、揉み込んで全体にシワが浮いたパーツは、揉み込んでいないパーツよりも色が明るくなる。ムラが強調され、豊かな表情になっていることもお分かり頂けるだろう。
一針入魂のダイヤキルト。
馬革にガイドラインを引き、裏面に芯材を貼り合わせ、ミシンでダイヤキルトを構築していく。一見簡単そうに見えるが、ダイヤが美しく膨らむように、凹凸面を直線に縫い進めるには高度な技術が必要となる。一針一針、神経を研ぎ澄ませて縫い進める。
柔軟な革質のため、意図的に揉み込んで付けた細かなシワはダイヤキルトの膨らみで目立たなくなり、均一でバランスの良いダイヤキルトに仕上がっている。
さらにダイヤキルトの膨らみでオイルが走り、透明感がある極上のブラウンに昇華。その色を例えるならば、チョコレート。実に美味しそうである。
このページではシワがわかりやすいように画像を少し明るくしているが、実際はもう少し落ち着いた渋みの効いたブラウンとなる。
この「揉み」のひと手間は、すべての個体に対して行うわけではない。ダイヤキルト部に目立つシワが入りそうな個体に対して行うことで、シワを目立たなくさせ、より安定した見た目に仕上げるのだ。
とは言え……である。
天然素材である馬革を使う以上、それでも必ず個体差は発生する。「OG-6」だけでなく「Original Garment Brothers」が企画するすべてのレザープロダクトでお願いしていることだが、シワやシボの量や場所、色の濃淡やムラ、キズや血筋、虎目など、天然素材であることに起因するクレームには一切お応えすることはできない。そのことを予めご了承頂きたい。
なお、バッグの製作プロセスは「OG-6」(ブラック)と同じなので、過去のレポートをご覧頂きたい。