欲望の赴くままに。
マニフォールドの宮本代表にファーストサンプルを仕立ててもらうため、横浜の自宅に戻ったオガワはA4用紙に手書きでイメージ図を描き始めた。「イメージが湧きやすいように」と貸してもらったマニフォールド製ウォレットで基本的な構造を把握し、己の欲望のままにデザインを描く。
自分のワガママを反映させればさせるほど、シンプルなウォレットが描かれていく。今回のオリジナルのウォレットは、革のエイジングを最大限に楽しめることが絶対条件。装飾的な意匠やステッチは無用なのだ。
美を追求する折り返し。
表革にはレザーJKT「OG-1」で使う茶芯の馬革。内部はすべて栃木サドルで仕立てる。前回の記事で紹介した通り、ウォレットのエッジは上画像のように馬革を折り返す。そして内側の栃木サドルと貼り合わせ、縫い合わせる。
今回使う特別な馬革は、じっくりと時間を掛け、フルベジタブルタンニン鞣しで仕上げられる。タンニンをたっぷりと含んでいるため、弾力があり、コシが強い。厚みは「OG-1」と同じ、約1.2〜1.3ミリ厚に設定されている。この厚みのままウォレットに使うが、エッジは漉いて薄くしないと美しく折り返すことができない。
漉きが足らなければエッジは不必要に盛り上がり、漉き過ぎれば迫力に欠ける。さじ加減は素人のオガワには知る由も無いが、革屋、宮本代表の技と経験が、オガワの理想をカタチにしてくれることは間違いない。
個性はどこにも無い。
レザーウォレットに制約は無い。デザインにこだわる。装飾にこだわる。機能にこだわる。素材にこだわる。すべて自由。個性に満ちたプロダクトだ。だからこそ、世の中には星の数ほどのレザーウォレットが存在し、それぞれの魅力を放つ。楽しいではないか。
では「Original Garment Brothers」の第一弾となるレザーウォレット。個性はどこにあるのか。断言する。納品された時点では、個性は無いと思って間違いない。デザインや装飾で個性を演出しようとは思っていないからだ。
直線で構成されたロングウォレット。ウォレットを開けば、カード段と小銭入れ。私の経験上、ウォレットとしての機能性、収納力はこれで十分。だが、シンプル極まりないデザインに、個性は無い。
あるのは、個性を生み出すギミック。前述の「ヘリ返しによるエッジ」だ。擦れやすいエッジを意識的に作ることで、茶芯の馬革のエイジングを最大限に楽しめるようにしていることは、すでに説明済みだ。
飴色のステージ。
栃木サドルで仕立てる内部、そこはサドルの飴色を存分に楽しむ場所。収納力を増すため、小銭入れ側にもカード段を装備するウォレットも多いが、この広いスペースが透き通るような飴色に経年変化したらどれほど美しいだろうか。まさに飴色を楽しむステージ。ブランドロゴすらも邪魔となる。
個性は自らが作り出すものだ。このウォレットのコンセプトに賛同し、手に入れてくれたブラザーは、手に届いた瞬間から唯一無二のウォレット作りがスタートする。四六時中、ジーンズのバックポケットに収めておくのもいいだろう。愛情を込めて手で擦り続けてもいい。栃木サドルを日光浴させるのも悪く無い。
愛情を持って接することで「経年変化」という個性が生まれるウォレット。オガワが目指すのは、そんなシンプルでエキサイティングなウォレットだ。
個人的な嗜好とワガママを存分に盛り込んだ、手書きのイメージ図が完成した。さっそくマニフォールド宮本代表にメールで送る。果たして、どのようなファーストサンプルが完成するのだろうか。