オガワを悩ませた、ブラザーの声。
2021年、「OG-15」のマテリアルとして発表した、赤茶色の馬革。職人の手染めによるダイナミックなムラ感。下地のキャメル色とのコントラスト。しなやかな革質。太陽光に晒されると赤く輝くことから、親しみを込めて「赤馬」と呼ぶことにした。
「赤馬」は瞬く間に骨太なブラザーたちに支持され、今シーズンは「OG-2」「OG-12」「OG-15」の3モデルへの投入が決まっている。春夏秋冬、季節を問わずブラザーから寄せられる「赤馬」に対する問い合わせの多さが、この唯一無二の馬革の人気の高さを物語っている。そして同時に、ひとつの問題も提起してくれた。
隠す必要はない。正直に言うと、ブラザーから届くのは「喜び」「共感」の声だけではない。「要望」「期待」の声も多く寄せられる。実際に「赤馬」を手にしたブラザーから届いた声で、オガワが気になったのは色味に関してである。それは、対極する「ふたつの声」。
ひとつは「想像よりも赤が薄い」という声。もうひとつは「赤が強過ぎる」という声。「赤馬」という愛称で発表したジャケットゆえ、前者の声が多いと思うだろうが、実際には半々。その事実が一層、オガワを悩ませた。
「赤馬」について、あらためて説明しておこう。下地をキャメル色に染色した馬革に、職人が赤茶色の染料を手作業で刷り込んでいく「手染め」。職人は手染めの「らしさ」を表現するため、意図的にムラを作る。
赤茶色の染料が厚ければ赤が強くなり、薄いと下地のキャメルの影響を受けて黄色味を帯びる。馬革の表面の状態や繊維密度によっても染料の入り具合が異なり、場所によっては黒味を帯びてどす赤くなる。
半裁革という限られたスペースの中に、様々な「色味」が不規則に混在する。職人のさじ加減、革の個体差に委ねられる、このムラ感こそ手染めの醍醐味であり、唯一無二。オガワはそこに魅力を感じ「赤馬」を使うことにした。
話をブラザーの声に戻そう。「想像よりも赤が薄い」のは、黄色味を帯びた部分が多く使われた個体だと推測できる。「赤が強過ぎる」のは、しっかりと赤茶色の染料が入った部分で仕立てられた個体で間違いないだろう。
残念ながら、双方の声を一度に解決できる術はない。完成した個々のジャケットをWEBサイトにすべて掲載し、自由に選んでもらえばクリアできるかもしれない。だが、生産数を考えれば現実的ではない。二者択一。腹を決め、選ぶしかない。
より深く、より赤く。
ならば、より赤く。黄色味を帯びる部分を極力少なくし、赤みが色濃く仕上がるよう「赤馬」を再構築することに決めた。手染め職人にオガワの脳内イメージを伝え、度重なるテストの後、手元に届いた新たな「赤馬」が上写真だ。
オガワが愛用する「OG-2」を上に置いて撮影。ハードに着込んだ個体ゆえ、既に若干の色落ちが発生しているため一概には言えないが、下に敷いた半裁状態の「赤馬」は赤味が濃く、黄色味を帯びた部分がほとんど無い。
とは言え、オガワの「OG-2」も元々黄色味が少ないので、イマイチ伝わりにくい。なので「OG-15」を見て頂きたい。
上がオガワ所有の「OG-15」。わかりやすくするため、少し画像を明るくしている。バスト周辺が黄色味を帯びているのがおわかり頂けるだろう。個人的にはこのヤンチャな雰囲気も大好きだが、再構築する赤馬ではこの「黄色味」を極力少なくしている。
「黄色味」を少なくすることで激しいムラも減少するが、やや黒味を帯びたどす赤い部分は健在。手染め特有の表情は存分に楽しめる。2023年シーズンの「OG-2」「OG-12」「OG-15」は、この新たな「赤馬」で仕立てることになる。
だが、あくまで「赤」ではなく「赤茶色」だ。馬革の個体差、職人のさじ加減によって、黄色味を帯びた部分が入ることもある。「赤馬」を発表した当初から言い続けていることだが、個体差が苦手、均一で安定した色味を求めるブラザーには、絶対にオススメしない。オーダーからブラザーの手元に届くまでの間、精神衛生的にも良くない。
唯一無二を好み、馬革を育てる醍醐味を堪能したいブラザーにこそ「赤馬」は相応しい。