シワに対する偏愛。

「OG-1」Leather JKT(End)

革は同じ品質がふたつと存在しない、天然のプロダクトである。大自然を走り回っていた馬や牛から誕生する、非常に貴重で唯一無二の素材だ。当然、動物の体の大きさや状態によって、鞣され、素材となった革には個体差が生じる。この革の個体差によって、同じスタイル&デザインであってもレザージャケットの表情は大きく変わる。

完全に好みが分かれるところだ。一般的に日本人はシワやキズが無く、均一な革を好むと言われている。一方、欧米ではひと目で自分のジャケットとわかる個性的な表情の革を好む傾向にあると聞いた。

オガワも根本は典型的な日本人であり、微細な汚れやキズが気になる人種だ。大好物の腕時計。アンティークウォッチですら、文字盤やケースにダメージがある個体は敬遠してしまう。レザージャケットに関しても、シワやキズが少ない個体を選び続けてきた。学生時代にバイト代をすべて注ぎ込んだリアルマッコイズの「A-2」。カタログで見た、キズひとつ無い一糸乱れぬプロダクトに心を奪われた。

35歳を超えた頃だろうか、趣味嗜好に変化が現れた。特に「革」という素材に対してだ。何十着ものレザージャケットに袖を通し、何十足ものレザーブーツを履いてきたが、毎回、同じことを思う自分に気が付いた。

「この部分のシワがたまらない」
「ここにもシワが現れたらいいのに」
「この革、着込んでもなかなかシワが出てこない」

シワの魅力に憑かれてしまったのだ。以降、レザージャケットとレザーブーツを選ぶ時の基準は「シワ」。新品時からシワが多い個体、着込むとシワが生まれそうな個体を選ぶようになっていった。「もっとシワが欲しい」その思い、その欲求は年々強まっていった。

究極の一着を作りたい。

レザージャケットに使われる馬革や牛革は、革の部位によって特性が異なる。パーツを切り出す時は、背中で半分にカットした半裁革に型紙を置いて裁断する。一般的に、背や臀部(尻)は均一で、腹や脚近くはシワが多い。半裁革の状態を見極め、いかにシワやキズを避け、適材適所でパーツを切り出すか。裁断師の腕の見せ所である。

だが、オガワは思い続けていた。「シワが現れて欲しいパーツに、革のシワが多い部位を使ってレザージャケットを仕立てることはできないのか」と。個人的には襟や前身頃、袖にシワが欲しい。

レザージャケットの定説を否定することになるかも知れない、裁断師が長年培ってきた経験と技術を無視することにもなる。でも作りたい。2018年2月に長年勤めた出版社を退社し、何にでも挑戦できる身となった今、自分が本当に理想とするレザージャケットを作ることを決めた。着続けることに楽しみと喜びを感じられる、魂の一着を。