新しい「OG-4」を作る。

「OG-4」Denim JKT(End)

己の心に正直なモノ作り。

言うまでもなく、オガワが2018年に立ち上げた「Original Garment Brothers」は、プロダクトを作り、ブラザーが大切なお金を払ってくれることで成立する生業である。それは、いわゆるブランドビジネスという類に入るのだろう。

だが、一般的なブランドと決定的に異なる点がある。それは、プロダクトを提案する対象者が非常に限定されているということ。何度も言い続けている、特定少数のブラザーと楽しむモノ作りだ。

不特定多数に向けたモノ作りでは、「効率」「売上」「利益」を優先的に考えればいいのかもしれない。だが、限られたブラザーに向けたモノ作りでは「共感」が何よりも重要だと考えている。

オガワ自身が、今この瞬間に欲しいと思えるプロダクト。その気持ちや感覚に共感してくれたブラザーだけが手にしてくれればいい。

だから、ひとつのプロダクトに対して、暑苦しい言葉を羅列し、オガワの心の内を徹底的に書き連ねるのだ。

ハナシを本題に近付けよう。

今回の主役「OG-4」は、2019年に発表したデニムJKTだ。昔からデニムJKTが好きだったが、年を重ねるにつれて袖を通すことを躊躇するようになった。その理由は着丈の短さだったり、ボックス型のシルエットだったり。

そこで、オヤジ世代でもクールに着こなせるデニムJKTをテーマに、試行錯誤を繰り返し、完成させた一着が「OG-4」ということになる。

日本全国のブラザーに共感して頂き、既に第三期オーダーまで完了している。今回、第四期オーダーを開始するにあたり、既存のパターン(型紙)を使い、今までと同じデニム生地で仕立てることが、もっとも効率的であることは言うまでもない。

だが、作り直すことにした。

今この瞬間、オガワ自身が袖を通したいデニムJKTとは何か。自問自答を繰り返し、己の心と正直に向き合った結果の結論。パターンをすべて作り直し、生地を変更し、同デザインながら、まったく新しい「4」を作る。そう心に決めたのは、昨年秋のことだった。

ヴィンテージからの脱却。

決してヴィンテージを否定するわけではない。これからも、ヴィンテージの魅力的なディテールはどんどん採用していく。だが、無理を押してヴィンテージを模倣することはしない。

まず、従来モデルの「OG-4」の仕上げについて説明しておこう。

「OG-4」で使用している生地は、旧式力織機で織り上げた昔ながらのデニム生地だ。防縮加工を施していないため、洗いと乾燥によって大きく縮みが生じる。そのデニムの縮率を考慮し、実際の製品寸法よりも大きいパターンで「OG-4」を縫い上げている。

縫い上がった「OG-4」を洗い加工専門工場に持ち込み、ワンウォッシュ、そして業務用の高温乾燥機で乾かし、一気に縮める。つまり、製品洗いを施している。

上写真は、乾燥機から取り出した直後の「OG-4」。洗いと乾燥による縮みに加え、右綾織りデニム特有の捻れと歪みが生じている。また、襟のコーデュロイ生地よりもデニム生地の縮率が大きいため、襟が内側にやや丸みを帯びている。

ヴィンテージのデニムJKTでは、こうした捻れや歪みが確認できる個体も多く、ヴィンテージ特有の風合いとして認識されている。

2019年、この「OG-4」を企画した当時のオガワも、この捻れや歪みにヴィンテージライクな味わいを感じていた。無論、その気持ちは今も変わっておらず、この佇まいは相変わらず大好物でもある。

だが昨年の秋、脳内に小さな欲求が生まれた。

捻れや歪みを抑えた、ビシッと整った「OG-4」を見てみたい。カッチリとした襟を与えた「OG-4」を見てみたい。

そのためには製品洗いではなく、生地洗いが必須となる。生地の状態で洗いと乾燥を施し、縮み切った生地を使って裁断&縫製を行うのだ。

防縮加工が施されたデニム生地を使うという方法もあるが、実際に洗い加工を施し、縮ませたデニム生地を使った方が、ジャケットに仕上がった後の捻れや歪みは少ない。

脳内に描く新たな「OG-4」への欲求は日に日に大きくなり、気が付けば「OG-4」の生産地である岡山児島に向かっていた。

着丈も伸ばすことにした。

レザーJKT以外のウエア類は、すべてデニムの聖地として世界的にその名を知られる岡山児島の「アパレルナンバ」で製作している。そのアパレルナンバから数分の場所に、パタンナー山地氏が代表を務めるテンフォーワンがある。この道数十年、オガワが絶大な信頼を寄せるパターンの匠だ。

製品洗いから生地洗いへ。「OG-4」のリニューアルを伝えると、過去のパターンデータと製品の仕上がり寸法を確認し、すぐに新たなパターンの製作に取り掛かってくれた。頼もしい限りだ。

今回はもうひとつ、着丈の延長もお願いした。元々「OG-4」は一般的なデニムJKTよりも着丈を長く設定していたが、今回はさらに2センチ長くすることにした。

間も無く48歳になるオガワ。年を重ねるほど、短い着丈に抵抗感を感じるようになってきた。そして、3年前よりも大きく成長した腹部を優しく包み込みたい。

メタボオヤジの心の叫びを反映した着丈変更と理解して頂いて構わない。

15オンスへの変更。

パターン製作を山地氏に託し、美鈴テキスタイルの鈴木代表の元へ向かった。星の数ほど存在する生地の中から、オガワのイメージにリンクする生地を提案してくれるプロフェッショナルだ。

従来の「OG-4」は14.5オンスのデニム生地を使っているが、捻れや歪みを抑えた端正な新モデルには、もう少し厚い、タフな生地を使いたい。

とは言え、ストレスを感じる着心地は許されない。タフでありながら、オガワのようなオヤジ世代が快適に袖を通せるしなやかさも併せ持ち、さらには所有欲を満たす色落ちが楽しめるデニム生地。そのギリギリを攻める。

15〜16オンスを中心に10種類ほどの候補に絞り、生地サンプルを自宅に持ち帰った。それから約二週間、毎日この手で揉み続け、柔らかさやコシ感、ザラ感、色味がもっとも心地良い、15オンスのデニム生地を選び出した。

14.5オンスと15オンス。数値的な差は僅かだが、デニム生地の硬さやコシ感、ザラ感はオンスだけで決まるものではない。糸の撚りや織り上げるテンションなど、様々な要因によって特性が決まる。

新たな「OG-4」の15オンスデニムは、従来生地よりも骨太さが際立つ。ややパリッとした硬さ、ザラ感、色の深み。それでいて、着込むほどにしなやかになる。従来の「OG-4」を所有しているブラザーでも、趣向が異なる新たな一着として楽しんでもらえるデニム生地だ。

襟にこだわり抜く。

新たな「OG-4」では、襟にも注目して頂きたい。

従来モデルの襟に使用していた、太畝でキャメル色のコーデュロイ生地。膨大な種類の中から選び出した、オガワの理想とバッチリとリンクした素材だ。

だが、問題が発生した。

昨今のコロナ禍は、テキスタイル業界にも影響を及ぼしている。今までは常に流通していたお気に入りのコーデュロイ生地の生産がストップし、必要な時に入手できる環境ではなくなってしまった。

あの手この手を使い代替生地を探したが、理想のコーデュロイは現れない。太畝のコーデュロイは用意できても、キャメル色が無い。

ならば、染めよう。

オガワにとって「Original Garment Brothers」は乗り掛かった船だ。途中で諦めることも、妥協することも許されない。そんなことではエキサイティングな航海、つまりワクワクした人生を送ることなどできない。

さっそく専門工場で5種類のキャメルカラーを試験的に染めてもらった。余談だが、このサンプルの色出しを「ビーカー」「ビーカー染め」と呼ぶらしい。

上写真。「1」「2」は落ち着いた大人のキャメル色。若干、銅色の傾向がある。「3」「4」「5」は従来モデルに近い明るいキャメル色。

迷った。本当に迷った。

画像では伝わらないだろうが、優劣付けがたい魅力的な色ばかりだ。正直なところ、デニム生地を選ぶよりも時間が掛かった。

サンプル生地を襟に貼り付けた「OG-4」を羽織り、鏡の前で仁王立ちしてみたり、日光下での表情を確認するために、サンプル生地を片手に家の外をウロウロしたり。

悩みに悩み抜いた末、「2」を採用することにした。屋内では落ち着いたキャメル色だが、光の具合で妖艶な表情も見せるアダルトなキャメル色。

実はこの原稿を書いている今、「2」のキャメル色に染めたコーデュロイ襟で仕立てた「OG-4」が手元にある。悩み抜いた時間は無駄ではなかった。

この色にして良かった。心からそう思っている。