「経年変化」と「耐久性」を、仕込む。

Leather JKT 2019(End)

厚みが揃う「安定感」と「安心感」。

馬革の仕様が決まってから約3か月。サンプル革が鞣し上がり、「割り職人」の手によって1.3ミリ厚に揃えられた馬革が完成した。さっそく、大阪のワイツーレザー本社へ向かう。

一見しただけで、この馬革がただ者ではないことがわかる。「傷」「血筋」「トラ目」、すべてを隠すことなく、天然の馬革が持つ個性をダイレクトに伝える、素上げ特有の表情。無骨の極み。

馬革に触る。繊維の密度による硬さの違いはあるが、どこを触っても1.3ミリだ。この「安定感」と「安心感」、実際に触れた者でなければわかるまい。

厚めに仕上げて、割る。

「割り」を行なっていない「OG-1」の馬革と、まったく同じ表情をしている。手で握ると「ギュウギュウ」と泣く。タンニンがたっぷりと含まれている証拠だ。コシ感も半端ない。

通常、革を割るとコシ感が損なわれる。だが、タフさが求められるレザーJKTの馬革に、コシ感は欠かせない。そこで「厚めに仕上げて、割る」という方法を用いた。

1.3ミリ厚に割ることを前提に、1.8ミリ前後の分厚い馬革を仕込んだ。厚い馬革には、タンニンや脂がたっぷりと含まれる。そのため、1.3ミリに漉いても革全体にタンニンや脂がたっぷりと詰まっているというわけだ。

革を知り尽くしたワイツーレザーの経験が、物を言う。

皺を、読む。

見てきた革の数が、違い過ぎる。ワイツーレザー本社奥の作業場で、黙々と革を断つ山田氏。熟練の裁断師である氏は、こちらがリクエストした通りに「前身頃」「袖」に皺が多い部位を取り込む。

素上げの馬革は、仕上がった革をドラムに入れて揉む「皺加工」など、一切の加工を施していない。そのため、皺のある部位は意外と少ない。馬革本来の姿だ。一着どこを取っても小皺が際立つジャケットも巷には多いが、元々の馬革にそんな皺はない。

一見、無表情な馬革の表面を凝視し、指先で状態を確認する。そして、型紙を置き、革包丁を立てる。無造作に型紙を置いているのではない。革を読み、皺が浮きやすい部分をしっかりと見定め、パーツを切り出している。

茶芯を割ると言う、非効率。

上の写真をご覧頂きたい。半裁革の状態で1.3ミリ厚に漉いているため、革の黒い床面(裏面)が一部削られて、茶芯のブラウンが現れている。茶芯で仕上げた馬革を、割っている証しだ。

黒い床面が削られた部分は「茶芯」ではなく「茶下地」の状態になる。「もったいない」という声も聞こえてくるが、それよりも1.3ミリに揃える行為の方が、重要度は断然高い。

ただし、来季は「茶下地」でも良いと思っている。着込むことでブラウンが現れることに変わりはなく、「茶下地」であれば、ブラウンの色味もさらに自在に操れる。

「茶芯を割る」という非効率極まりない製法で仕立てるのは、今季のみになるかもしれない。

「漉き」に見たワイツーレザーのプライド。

レザーJKTを仕立てるだけのファクトリーではない。10年、20年、着込み続けることを想定したモノ作り。それは、目に見えない「漉き」に垣間見られる。

1.3ミリに揃えた馬革から切り出したパーツ。折り返し部分や縫製部分は、漉いて薄くする。

薄くすれば良いというものではない。着用時、どのような力が、どの方向から加わるか。徹底的に検証し、縫い合わせる両パーツの漉き具合を調整する。この工程が耐久性を大きく左右する。

手を抜こうと思えば、抜ける。すべての縫製部分を一括して同じように漉けば、機械的な作業で完結する。漉きの厚みを調節したり、片側だけを漉いたり、煩わしい作業は発生しない。縫い合わせてしまえば、知る由もない。だが、それは許さない。

ワイツーレザーが仕立てる一着が、流行やブームに関係なく、着実に評価を集めているのは、そんな見えない部分への真摯な姿勢にある。