裁断前に「栃木サドル」を日に焼く。

「OG-9」Short Wallet

ラウンドジッパーの弱点を克服。

「弱点」と言っても、機能的な問題ではない。人によっては「弱点」でもなく、オガワ自身が勝手に思い続けてきたことに過ぎない。

小さなウォレット「OG-9」では、内部に上質な栃木サドルを使う。昔ながらの製法で、時間を掛けて鞣された栃木サドルは、日光を浴びることで透き通るような飴色に経年変化し、多くのレザーラヴァーを魅了する。

その品質の高さはレザーを取り扱う世界各国の一流ファクトリーからも認められ、日本が世界に誇るブランドレザーとして確固たる地位を確立している。

「Original Garment Brothers」が既にリリースしたロングウォレット「OG-3」「OG-8」でも、内部に栃木サドルを使っている。使用開始前にニートフットオイルをを薄く塗って日光浴させ、薄っすら小麦色に焼いてから使い始めるのがオガワのルーティンだ。

だが、ラウンドジッパーではそうはいかない。

過去に所有してきた多くのラウンドジッパーも、その大半が内部に栃木サドルを使っていた。オイルを塗布して日光浴をさせたいが、構造上、なかなか難しい。通常の使用時も、ロングウォレットに比べ、内部に日が当たる機会は極めて少ない。

その結果、栃木サドルが小麦色や飴色に経年変化する前に、汚れが目立ってしまう。白っぽい栃木サドルが薄黒く汚れた状態は、決してカッコいいとは言えない。

そんな経験をしてきたオガワは、裁断前に日光を存分に浴びせ、薄っすらと小麦色に日焼けした栃木サドルでラウンドジッパーを仕立てればいいのではないかと、ずっと思い続けてきた。

今こそ、その思いを実行に移す時が来た。

段取りはこうだ。亀太郎氏の工房に届いた上質な栃木サドルを、一度、オガワの自宅に持ち帰る。ニートフットオイルを薄く塗り、ベランダで1〜2日間、直射日光に晒す。

オガワの自宅は一軒家だが、ベランダが非常に狭い。絶好の場所は、趣味の珍奇植物が占拠している。「OG-9」に想定以上のオーダーを頂いた場合には、オガワの自宅からクルマで10分ほどの場所にある実家も使う。抜かりなし。

都合がいいことに、実家のガレージ上の広いスペースには1日中、直射日光が当たる。巨大な半裁革のまま、日光浴も可能だ。栃木サドルを日光浴させるために、このスペースを設計したのではないかと思ってしまうほど、抜群の環境が整っている。

日光浴が完了した栃木サドルを、再び、亀太郎氏の工房に運び込む。そして、裁断、仕立てへと進む。

裁断後の革パーツを日光浴させるのであれば、小スペースで事足りるかもしれない。だが、裁断した革パーツにオイルを塗布し、日光浴させれば、縮みや歪みの可能性がある。完璧な仕上がりを求めるには、裁断前の栃木サドルを日光浴させるのがベストだ。

やはり、半裁の栃木サドルはデカかった。オガワの自宅の小さなベランダでは広げられず、実家に持ち込み日光浴させた。そして後日、亀太郎氏の工房に運び込んだ。上の写真は、ビフォア、アフターだ。その差は歴然。白っぽい栃木サドルが、健康的な小麦色に変化した。

この一手間は、栃木サドルの経年変化に興味がない人にとっては、どうでもいいことかもしれない。無駄な手間と言われるかもしれない。

だが、自分自身が追い求める理想のプロダクトを作るためには、どんな無駄なことにも挑戦する。そして、オガワのモノ作りに共感してくれるブラザーとワクワクを共有する。

それこそが「Original Garment Brothers」の存在意義。

いよいよ、次回は最終仕様のサンプル製作に入る。亀太郎氏の工房を訪れ、「OG-9」が完成する瞬間をレポートする予定だ。