職人、亀太郎氏の手仕事。
日光浴をさせて薄っすら小麦色になった栃木サドル。オガワが企画するレザーJKTの生産ファクトリー「Y’2 LEATHER」から取り寄せた「OG-2」の馬革。亀太郎氏の手によって、それらを裁断した状態から、今回の製作レポートを始める。
予め断っておくが、ここで紹介する製作工程は、すべての作業の1/5にも満たない。パーツの下処理から組み立ての段取り、そして縫製の手順、仕上げ。「OG-9」の製作は特に複雑を極める。
今回の撮影時間は8時間以上、撮影カットは実に500カットを超えた。
そのすべてを掲載し解説することはできないが、二回に分けてお届けするレポートで、「OG-9」という小さなウォレットに、卓越した技とアイデア、そして情熱と信念が注ぎ込まれていることを感じて頂けるはずだ。
さっそく製作の様子をお届けしよう。上写真は「OG-9」に使用される全パーツ。意外なほど少ないパーツ点数だが、1000ピースのパズルを組み立てるような、複雑で地道な作業が待ち受けている。
亀太郎氏は「下処理」に時間を惜しまない。地味で細かい作業だが、美しい仕上がりを手に入れるには欠かせない工程だ。百戦錬磨の匠は、誰よりも「下処理」の大切さを知っている。
パーツのエッジを面取りし、丁寧にコバを磨く。亀太郎氏が磨き上げるコバの圧倒的な美しさは、レザーラヴァーの間では有名。コバを磨いたエッジと未処理のエッジ、その差は一目瞭然。
新しいプロダクトを作る度に同じことを言っているが、「Original Garment Brothers」のロゴを目立つ場所に入れることが好きではない。
ブラザーには、デザイン、マテリアル、表情、仕立て、使い勝手、経年変化……それらを存分に楽しんで頂きたい。それこそがプロダクトのあるべき姿、魅力であり、ブランドロゴは時にその魅力を損ねかねない。
ということで、ロングウォレット「OG-3」「OG-8」と同様、ロゴは通常の使用では見えない場所に打刻している。
革パーツの下処理が完了したら、縫製作業に入る。作業前は他愛もない話で盛り上がっていた亀太郎氏だが、作業に入った瞬間、その顔から笑顔は消え、鋭い眼光が革に向けられる。趣味や遊びではない。長年、レザークラフトを生業としてきた男が見せる、本気の姿だ。
上写真はウォレット中央の小銭入れ。ファーストサンプルでは2枚の革を縫い合わせて袋状にしたが、それではボトムの縫い目に小銭が挟まり、取り出しにくい。そこで1枚革を半分に折って、ボトムに縫い目が来ないようにしている。
内側に折り込んだ「くの字」のマチが好きではない理由はすでに説明した通り。小銭入れの両面はカード&紙幣の収納部に縫い付けられるが、「コの字」の縫い付け幅によって、小銭入れの開き具合が変わる。ファーストサンプルからミリ単位で検証し、ベストな縫い付け幅に設定した。
ジッパーとの干渉を防ぐため、小銭入れはウォレット幅よりも左右各5ミリ、短く設定している。そのため、ウォレットのカタチになるとコバが磨けない。よって、この段階で磨いておく。ため息が漏れるほど、ピカピカ。
ストレスフリーなカードの出し入れを目指し、辿り着いた3ミリの空間。カード収納側は、カードが深く潜り込まないように「上げ底」にしている。
カード&紙幣の収納部に挟み込む、3ミリ厚の革パーツ。その入り口脇のアップ。お分かりだろうか。カードや紙幣の引っ掛かりを低減し、よりスムーズな出し入れを実現するために、エッジを丸く削っている。わずか数ミリ。細部まで絶対に妥協しないモノ作りを貫く。
3ミリ厚の革パーツを挟み込むように、革を貼り合わせる。これで箱状の空間が生まれた。
3ミリ厚の革パーツを挟み込んでいるため、収納部の側面は分厚い壁になる。
収納部のさらに外側に、ウォレット内部のベース革を貼り合わせる。
そして、時間を惜しまずコバを磨き上げる。スピード、力加減、角度……長年の経験に基づく匠の技が、木工芸品のような美しいコバを生む。
後編へ続く。