シンプルな内部レイアウト。
使い始めは問題ないと思っていても、使い込むほどに不具合は見つかるものだ。やはりどんなプロダクトでも、作り手が実際に使用してみないことには、ベストなプロダクトはお届けできない。
まず内部デザインの説明。上写真がファーストサンプルの内部だ。栃木サドルで仕立てたシンプルなデザイン。片側に札入れ&小銭入れ、もう片側はカード収納を二段。小銭入れ側にカード収納を設けなかったのは、この何も無い広いスペースこそ飴色を楽しむ最大のステージだと考えたからだ。
カード収納口のラインも、手書きのイメージ図で宮本代表にリクエストした通りにカットされている。一般的なラインだが、このラインがもっともカードを出し入れしやすいと思っている。
内部のベースとなる革は、中央部分を横長にくり抜いた1枚革。小銭入れ側とカード収納側、ベースの革を分離して表革に貼り合わせているウォレットもあるが、1枚革にした方が革切れや破損が低減され、耐久性は格段に向上する。このベース革の内側にも、カードや領収書などを収めることが可能だ。
注目して頂きたいのは、ベースの革に開けた口から見える革部分。しっかりと栃木サドルによる内張りを施している。内張りが無いウォレットの場合は、この部分に表側に貼り合わせた革の床面(裏面)が現れる。
内張りを施すには、表革と同じ大きさの栃木サドルが必要となる。非常に贅沢な仕立てではあるが、耐久性の向上、型崩れ防止など、タフなウォレットを目指すには欠かせないディテールでもある。
使ってわかる数ミリの差。
本題に入ろう。オガワの手元に届いたファーストサンプルには、宮本代表からのメモが添えられていた。内容はこうだ。ウォレットを折り曲げた時のゆとりが最小限のため、小銭やカードを収納するとウォレットがきれいに重なり合わない可能性がある。
不必要な厚みを嫌うあまり、折り曲げに必要な寸法まで切り詰めてしまったオガワのミスだ。実際に使用テストを行うと、宮本代表の忠告通り、重なりにズレが生じた(上写真)。その差は約5ミリ。美しくない。セカンドサンプルでは高さを5ミリ伸ばし、ツライチに重なるように修正する。
Tカードの嬉しい誤算。
さらに不具合が見つかる。それが上の写真だ。おわかりだろうか。使用テストでは、お札や小銭はもちろん、実際にカードを収納し、内側(下側)にも使用頻度が少ないカードや免許証などをたっぷり収納して使っていた。
ところが、誤算が発生した。Tポイントカードだ。オガワはTカードを使用頻度の低いカードと一緒に保管していたが、コンビニや給油時など至る所で「Tポイントカードはお持ちですか」と聞かれ、都度、ウォレットから取り出すことになった。
するとどうだろう。長方形にくり抜いたベース革の開口部分が、めくれ上がってしまった。革が伸びたわけではない。上の段に収納したカードの上端から開口部までの距離が長く、遊びが発生。たるんでしまったのだ。逆を言えば、開口部が少々狭すぎたのだ。下写真を見ればわかりやすい。
使用上の問題は無い。だが、これもまた美しくない。さらに開口部が狭いため、ウォレットを折り曲げた際、ジッパーの引き手が開口部の縁に当たってしまうことも判明。Tカードを頻繁に使わなければ気が付かなかった不具合。感謝である。
不具合を解決するために、ベストな開口部の広さを探る。オガワが導き出した長さは6ミリ。開口部をカード収納側に6ミリ広げることで、収納したカード上端との距離を縮め、革がめくり上がることが防止できる。さらにジッパー引き手の干渉も緩和される。そう推測した。
さっそく修正内容を宮本代表に伝え、セカンドサンプルの製作に入ってもらう。セカンドサンプルでは本番と同じ「OG-1」の馬革を使う。失敗は許されない。修正は2か所。
■ウォレットの高さを5ミリ伸ばす。
■内部の開口部を6ミリ広げる。
オガワの推測は正解か、誤りか。マニフォールドからセカンドサンプルが届くまで、しばし心地良い緊張感を楽しむことにしよう。