特別な馬革を使う。
頑固一徹な職人が仕切る小さな国内タンナー。気難しい性格ゆえ、大量生産、安定供給には向かないが、抜群に味わい深い馬革を仕上げてくる。量産モデルに使うにはリスクがあるらしいが、オガワが求める一着にはこれしかない。
今回のプロジェクトで作り上げる類い稀な一着。オーダーしてくれるブラザーたちの手元に1日でも早く届けたい気持ちはあるが、オガワは納期が多少遅れても頑固職人が作る馬革を使いたい。革との付き合いは長い。目先の数か月より、10年先を見越した革選び。この一着に興味を持ってくれた馬革偏愛主義者であれば納得してくれると思っている。
今回は上記に加えて、茶芯をリクエストした。着込むほどに表面の黒が擦れ、茶色が現れる。革好きにはたまならい表情が最大の魅力だ。
プロジェクトがスタートして約2か月、特別に仕込んだ茶芯の馬革サンプルが届いた。この目で確かめる。シワやシボ、キズさえも隠さない素上げ。マットな手触り。握ってみると、ギュッギュッと元気に鳴く。
断面を見て、鳥肌が立つ。
見事な茶芯。正真正銘、本物の茶芯。それだけじゃない。質感、柔らかさ、厚さ、粘り、色、匂い……オガワの理想と寸分違わぬ馬革が目の前にある。何十年も革業界に携わり、タンナーと二人三脚で革を作り上げてきたワイツーレザーにとっては当たり前の仕事なのか。あらためてプロフェッショナルの凄みを感じた。
革の厚みは1.2〜1.3ミリ。
場所によってはもう少し厚みがある部分もあるが、概ね1.2〜1.3ミリに設定。薄すぎず、厚すぎず。レザージャケットとしてのコシのある風格を持ちつつ、着心地を損ねない絶妙な厚さ。エイジングも美しく表現する。悩みに悩み抜いたベストな革の厚みだ。
ここ数年、アメカジ雑誌でも頻繁に使われるようになった茶芯という言葉。漆黒のレザーの表面が擦れ、中の茶色が現れる革を指す。レッド・ウィングのエンジニアブーツに端を発した言葉だが、誤った情報も多い。一番上の写真を見て頂きたい。本物の茶芯は、文字通り「芯」だけが茶色、銀面と床面は黒い。
ところが昨今、ブラウンに染めた革の表面を黒く染色した革を「茶芯」と呼んでいる例も見られる。厳密には「茶芯」ではなく「茶下地」。見極めるのは至極簡単。革の銀面と床面が黒く、内部だけ茶色であれば「茶芯」。床面まで茶色であれば、表面を黒く染めた「茶下地」だ。
「茶芯」か「茶下地」か。正直なところ、どちらでもいい思っている。着込んで表面が擦れ、茶色が現れる経年変化に魅力を感じる人が自由に選べばいい。ただ、間違った情報は何のプラスにもならない。正しい知識を一度インプットしておいて損はない。