ストックバーグの工房での打ち合わせから約3週間。宮坂氏より「ファーストサンプルが完成した」との連絡が入る。1分1秒でも早くファーストサンプルをこの目で確認したい。さっそく、宅配便で発送を依頼。
翌日、ファーストサンプル到着。興奮気味に箱から取り出す。とうとう姿を現した「HORSEHIDE MINI BAG」。さすがはフラットヘッドのレザー部門、ストックバーグによるプロダクト。仕上がり、期待通り。
細部を煮詰めていく。
「期待通り」とは、あくまでファーストサンプルにおけるレベルの話。最終的なプロダクトとしての完成度の高さを意味してはいない。
実際に使っていくうちに、必ず様々な改善点が見えてくる。ここから煮詰める。このミニバッグに限らず、モノ作りにおいてファーストサンプルはスタート地点に過ぎない。叩き台だ。
軽さこそ、最大の武器。
約2週間、実際に使用してみる。手にして自宅から出た瞬間、今まで感じたことがない新鮮な感覚が押し寄せる。軽い。
通常はジーンズのバックポケットに収めるウォレットとスマホも、試しにバッグに収納。さらにペットボトルの水も入れている。それでも、軽い。
この軽さは最大の武器だ。「手ぶら主義」という頑固な方々にも、このミニバッグなら受け入れてもらえると確信した。
改善すべき点を、洗い出す。
使用テストは自己満足の時間ではない。誰よりも厳しい目で、自身のプロダクトをチェックする大切な行為だ。少しでも気になる箇所があれば、遠慮なくストックバーグに進言し、セカンドサンプルで修正を入れる。
以下は使用テストの結果、セカンドサンプルに向けて修正を加えるポイントである。
<根革>
小さ過ぎた。ボディの大きさに比例して、ハンドルと本体を繋ぐ「根革」と呼ばれるパーツを小さくした結果、ボリューム感が不足。フラットヘッドらしさにも欠ける。そこで、フラットヘッドのトートバッグに採用されている「根革」と同仕様に変更することにした。
<ステッチの色>
想定外だった。縫製部とダイヤキルトに「こげ茶」の糸を使ったが……黒にしか見えない。そのためアメリカンカジュアルの雰囲気は無く、「夜の世界に生きる男と女のバッグ」という、想定外の趣に。
確かに「こげ茶」だが、「何色か?」と人に聞けば10人中9人は「黒」と答えるだろう。そこで、縫製部の糸をすべて「明るい茶」に変更。
ただし、ダイヤキルトのステッチ色は「こげ茶」のままでいく。ダイヤキルトまで「明るい茶」にすると、全体の雰囲気が若々しく、健康的になる。一般のプロダクトであれば大歓迎だが、このミニバッグでは「オヤジらしさ」がスパイスとなる。だから「こげ茶」のまま。
<ジッパーテープの色>
これも想定外だった。ジッパーテープは無難なブラックを選んだが、これまたアメリカンカジュアルらしさが激減。学生鞄のような佇まいになってしまった。宮坂氏にテープカラーの見本帳を見せてもらい、ライダースJKTやフライトJKTのような茶褐色のテープに変更する。
<ジッパーエンドの位置>
完全に見た目の問題だが、両サイドのジッパーエンドの位置が低過ぎる。なんというか……弱々しい。2センチ、ジッパーエンド部を上げることで、男性的でクールなサイドビューを演出しよう。
<内ポケット>
ファーストサンプルの内ポケットは片サイドにひとつ。ここに収納するモノと言えば「スマホ」と「キーホルダー」だ。仕切りがなければ、スマホが鍵で傷だらけになってしまう。中央での分割はマスト。さらにスマホを確実にホールドするため、1センチ、ポケットを深くする。分割部はカシメで補強し、耐久性を向上させる。
<オリジナルラベルの縫い付け>
ファーストサンプルでは「THE FLAT HEAD」「STOCK BURG」のブランド名が打刻されたレザーパッチのみ縫い付けているが、セカンドサンプルではパッチの下に「Original Garment Brothers」の織りネームを縫い付ける。
フラットヘッドはオガワにとって特別なブランド。平成最後のプロダクトを共に作れることは、オガワにとって誇りだ。厚かましくも、ネームを並べさせて頂きたい。
まだまだ、こんなもんじゃない。
改善点、修正点をを確実にセカンドサンプルに反映させるため、修正指示書を作成し、ストックバーグに送る。職人とのやり取りに慎重過ぎることはない。職人との意思疎通こそ、最高のプロダクトを作り上げる絶対条件だ。
ジッパーエンドの高さや「根革」の変更による型紙修正。長さとテープカラーを変更したジッパーの手配。それらの準備に約3週間。
準備が整い次第、再びストックバーグを訪れ、製作工程の撮影を行う。いよいよ、究極の「HORSEHIDE MINI BAG」が姿を表す。