理想の馬革を、仕込む。

Leather JKT 2020

きっかけはブラザーの声。

オガワが愛用しているレザーJKTをSNSにアップすると、ブラザーから「特別なアジ出し作業をしているのか?」という問い合わせを頂くことが多い。

レザーJKTの「アジ」は、ひたすら着込むことによって手に入るものだと思っている。革に致命的なダメージを与えるような行為、例えば洗濯機で洗ったり、着たままシャワーを浴びることは絶対にすべきではない。

ではなぜ、オガワのレザーJKTはアジが出るのが早いのか。それは、圧倒的に着用時間が長いからだ。

自宅を拠点としている個人事業主のため、一週間の大半を自宅の仕事部屋で過ごす。サンプルが完成すれば、夏場でもエアコンをガンガンに効かせた室内で、1日中、着たまま過ごす。これが生業と言えばカッコがつくが、結局のところ、暇なのだ。

ひとつだけ、アジが出やすくするために行う行為がある。それは、揉むこと。

天然素材である馬革は、シワが浮きやすい方向がある。繊維の向きとでも言うのだろうか。この方向を見極め、両手で馬革をつまみ、2〜3センチの小さい範囲をひたすら揉み込む。馬革の繊維をほぐすイメージだ。

1日6時間以上、ひたすら揉んでいることもある。指先が紫色に内出血することも珍しくはない。数日、時には1か月以上も掛けて、一着全体を揉み込む。結局のところ、暇なのだ。

だが、ひたすら揉み込むことによって、馬革の表面は小刻みに波打った表情になる。エイジングと呼べるような深いシワではないが、間違いなく、シワが浮きたくてウズウズしている状態になる。

この状態がオガワにとってのスタートライン。あとは、容赦なく着込むだけだ。

だが、ブラザーの声を聞いて、ふと思った。

会社勤めのブラザーは、夏場に職場でレザーJKTを着るわけにはいかないだろう。平日スーツに身を包むブラザーは、シーズン中でも週末しかレザーJKTに袖を通せないだろう。

1日中、レザーJKTを揉んで指先を内出血させれば、奥様や彼女の視線が痛い。そもそも「そんな暇はない」というブラザーが大半だろう。

ならば、仕込む。シワが浮きたくてウズウズしている瞬間の馬革を再現し、ブラザーと共に楽しもうではないか。

厚みを揃えた、安定感と安心感。

「Original Garment Brothers」のレザーJKTに使う馬革は、日本国内の小さなタンナーで、頑固一徹な職人が秘伝のレシピで仕込む、フルベジタブルタンニン鞣しの馬革だ。

顔料を吹き付けるのではなく、染料で染め上げ、表面処理を施さない「素上げ」の馬革。天然のシワやシボ、キズや血筋、トラ目なども隠すことなくダイレクトに楽しめるマテリアルだ。この馬革に惚れ込んでいる。

昨年の2019モデルでは、その馬革にひと手間を加えた。学生時代から今日まで、何十着という革ジャンに袖を通してきたが、いつも気になっていたのが、ジャケットの場所による革厚の違いだ

注文していたレザーJKTが手元に届くまで、革厚の違いが気になって眠れない。そして、ジャケットを手にし、ディテールによって明らかに厚みが異なると、少々残念な気持ちになる。そんな苦い経験を何度もしてきた。

天然素材である皮革は、当然ながら部位によって繊維密度が異なる。個体差によって革の状態も異なる。鞣した日の気温や湿度も、仕上がりに大きく影響する。

1.3ミリ厚を目指して仕込んでも、大きな半裁革では場所によって厚みが異なることは日常茶飯事。そのため、レザーJKTのスペックでは「1.3ミリ前後」などと幅を持たせて表記することが多い。結果、レザーJKTの左右袖や左右身頃の革の厚みが異なることも珍しくない。

それこそ、天然素材の醍醐味という人もいる。そこに魅力を感じる人もいる。否定するつもりもなければ、反論するつもりもない。そもそも正解などなく、好みの問題だ。ただ、オガワ自身が許せないだけだ。厚みを揃えたい。

今季の馬革も、1.3ミリ均一に漉く。

繊維密度によって硬さやしなやかさが異なることはあるが、一着、どの部分も厚みは1.3ミリにピッタリと揃える。これだけで、レザーJKTとしての安定感、安心感は抜群に向上すると思っている。

茶芯から、茶下地へ。

昨年の馬革は茶芯で仕上げた。だが、1.3ミリに漉いたことで、床面のブラック層が削れ、いわゆる「茶下地」状態になった。ならば、今季は最初から茶下地で仕立てる。

実は、茶芯より茶下地の方が、色の自由度が高い。着込んで表面のブラック層が削れた時に現れるブラウンの色味を自由に設定できる。

ワイツーレザーから茶下地の色見本を取り寄せ、実際に表面を削って色味を確かめる。主張し過ぎず、それでいてしっかりと茶下地のエイジングを楽しめるブラウンに追い込む。

2020年は、タイコで揉む。

さて、ようやく本題だ。

タンナーで仕上がった馬革をワイツーレザーに運び込み、1.3ミリに漉く。昨年はその後、裁断、縫製へと進み、「OG-2」を仕立てた。

だが、今季は1.3ミリに漉いた後、再びタンナーに戻す。そして、大きな半裁の馬革をタイコに放り込み、回す。いわゆる「空打ち」を施す。タイコの中で揉まれた馬革は、適度に柔らかくなり、微細なシワが生まれる。

「空打ち」の後、再びワイツーレザーへと運び込み、裁断、縫製へと進む。

1.3ミリに漉く前、つまりタンナーで仕上がった馬革をその場で「空打ち」すれば、輸送コストも時間も労力も、大幅に削減できる。だが、それではダメだ。均一な厚みに揃えた馬革をタイコで回してこそ、バランスの良い、理想の表情、理想のしなやかさが手に入るのだ。

重要なのは、さじ加減。

狙うのは、シワが浮きたくてウズウズしている瞬間の馬革。タイコで回す時間が長過ぎれば、人工的な深いシワが刻まれてしまう。回す時間が短過ぎると、表面が小刻みに波打った理想の表情にはならない。

馬革をカットし、オガワが理想とする表情になるまで手で揉み込む。その馬革をサンプルとしてタンナーに送り、職人とイメージを共有する。

タイコを回しては止め、回しては止め。都度、サンプルの馬革と表情を比較する。何度も繰り返し、ようやく理想の時間が導き出される。

素晴らしい馬革だ。

男の心を鷲掴みにする、表情豊かな馬革。無用な派手さもなく、決して人工的な表情でもない。それでいて、圧倒的な風格と存在感。まさに大人の馬革。シワが浮きたくてウズウズしている瞬間、そのものだ。

嵐の前の静けさ。

この馬革には、そんな例えが相応しい。今季発表するすべてのレザーJKTには、この独自に仕込んだ極上の馬革を使う。