ボタンは脇役でなくてはいけない。
ブランド名やロゴが主張するプロダクトは好きではない。私が企画したプロダクトをブラザーたちが愛用し、時間の経過とともに生まれる風合いこそ、プロダクトの「顔」になるべきだと考えている。ゆえに、シンプルが信条。
プロダクトに共通して縫い付けているネームタグ。オガワ自身がデザインした、黒地に金文字のシンプルなネームタグ。これさえも不要だと思っていたほどだ。
副資材であるボタンも定番がいい。主張し過ぎることなく、脇役に徹する。個人的にドーナツボタンが好きだ。特に、月桂樹の上に星がデザインされた、通称「ワンスター」。ヴィンテージに多く見られたデザインで、現在では復刻され、誰もが知る定番中の定番ボタン。
「ワンスター」は長きに渡って使われ続けているボタンだ。どんなアイテムにもマッチする。カラーや仕上げも多種多様だが、使い込まれたような重厚なシルバーカラーの「ワンスター」が特に好きだ。初回生産分のデニムJKT「OG-4」にも採用している。(上写真)
「uni」鉛筆の喜びを、もう一度。
一方で、心の片隅に「オリジナルボタンを作りたい」という欲求があったことも事実だ。
小学校に入学した時、両親が買ってくれた1ダースの小豆色の「uni」鉛筆。そこには「おがわひろゆき」と自分の名前が金色で箔押しされていた。あの時の嬉しさ、子供ながらの誇らしさは、45歳になった今でも覚えている。
オリジナルのボタンを作りたいという密かな欲求は、その気持ちに近い。
それでも、悩んだ。生産コストが問題ではない。オリジナルのボタンを使うことで、プロダクトのバランスは崩れないか。ブランドを誇張し過ぎないか。何よりも、かっこいいか。
たかがボタン、たかが脇役。されどボタンである。
実は今年(2019年)の1月に、岡山児島の「YKKスナップファスナー株式会社」を訪れ、オリジナルボタンの打ち合わせを行っていた。しかし、実際にオーダーをしたのは6月。約6か月、悩んだ末の決断だった。
「YKKスナップファスナー株式会社」児島支店を訪れた時の話をしよう。ご存知の通り「YKK」は世界トップのブランドだ。ファスナーの世界シェアは約45%、国内シェアは約95%を誇る。
ファスナーに並ぶ副資材であるボタン類にも力を入れており、児島のショールームには所狭しとボタンが並ぶ。
これほど膨大なボタンがあると、選べない。いや……実際には前述のワンスターをベースにする予定なので、選ぶ必要はないが、色々見ていると目移りしてしまうのだ。
見れば見るほど、目移りする。担当者してくれた「YKKスナップファスナー株式会社」の佐藤氏の話を聞けば聞くほど、悩む。どれも魅力的なボタンばかりだ。
同デザインのボタンでも、素材や色や表面処理の違い。裏側からボタンを留めるタックと呼ばれるパーツにも、素材や色や爪の本数など選択肢は多い。
そんな時こそ冷静になり、自分の直感を信じるべきだ。自分にそう言い聞かせ、予定通り、デニムJKT「OG-4」(初回生産分)で使った「ワンスター」の色、表面処理をベースに、「Original Garment Brothers」の文字を刻印することに決めた。
災い転じて福となった、文字数。
「ORIGINAL GARMENT BROTHERS」。当初は大文字表記のブランド名を、ボタンにすべて刻印しようとした。ところが、文字数が多い。
上のイラストの通り、文字はすべて収まるものの、一文字一文字が小さくなるため、文字の天地(上下)スペースが広く空いてしまう。バランスも悪い。
そこで文字列を「ORIGINAL GARMENT BROS.」に変更。さらに、機械的な星マークから、「ワンスター」に使われる不揃いな星マークに差し替えた。
すると、どうだろうか。文字の大きさ、バランス、天地のスペース……、安定感のあるデザインになった。しかも、私が大好きな「ブロス」というワードがボタンに刻まれる。デザインは決まった。このデザインをベースに金型を作成し、オリジナルボタンの生産に入る。
待ちに待った、ボタンの完成。
横浜の自宅に待望のボタンが届いた。重厚な質感、文字の雰囲気、味わい深い星マーク。イメージした通りの仕上がりだ。
やっぱり嬉しい。色々と悩んだが、オリジナルのボタンを作って良かったと思っている。名前入りの「uni」鉛筆を買ってもらった、あの頃の気分を、今、存分に味わっている。
オリジナルボタンは、製作を進めているシャツJKTに装着する。そして、同時にプロジェクト進行中であるレザーJKT「OG-5」、さらにはデニムJKT「OG-4」の第二期生産分にも装着予定だ。
プロダクトの完成が、さらに待ち遠しくなった。